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空母いぶきのogoのレビュー・感想・評価

空母いぶき(2019年製作の映画)
3.0
原作とは完全に別物。

「こんな戦争映画、今の日本にしか撮れない」と本心と皮肉を込めて…「いてまえー!!」

「自衛」という枷の中で、こちらを遮二無二殺そうと向かってくる敵を如何に殺さず無力化するかという無理ゲー。武士道的な美しさはあれど、武士道とは両者が同じ価値観で対峙しているからこそ成り立つ理想の極地であって、それが文化も思想も異なるイデオロギーの対立の中で成立するとは思えない。けれど、今作ではそれをどうにか完徹してしまう。

一方で、ロシア×ウクライナの戦争が現実に起こっている今観ると、「戦闘」から「戦争」へ繋げないことの重要さにフォーカスを当ている点は非常に先見の明があったとも言える。

口実を与えてしまった時点で後戻りが出来ないというのは、過去の歴史を見ても今の情勢を見ても明らかだし、その一線を「自衛」のキーワードでいかに乗り切るかという意味では、不戦を憲法で謳った日本という国が、いざ有事に際した時にどう振る舞い得るのかのシミュレーションとして、興味深い作品。

一映画作品としては、各キャラの掘り下げも足りず、戦術それぞれの意味性の納得感も薄く、136分が長く感じる退屈な出来だけれど、それでも各登場人物が吐露する言葉には、今の日本の防衛戦略と思想の歪さと、それでもその中で生きる人々の理想と苦しみが現れていて、考えさせられる場面が多かった。

理想と現実と。

現実は厳しくとも、コンビニ店長の中井貴一が書き連ねた美しい言葉が、いつか現実になりますように。
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