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ウトヤ島、7月22日のgnspのレビュー・感想・評価

ウトヤ島、7月22日(2018年製作の映画)
4.0
ただ我武者羅に「生」を求めざるをえないあの72分間。
各々の行動に「答え」なんてなく、あるのは止まらぬ銃声と罪なき命が奪われていく凄惨、悲哀、困惑。
その中で「他者」のために体を奮い立たせられる心の尊さ。



ノルウェーで起こった惨劇を「基にした」、ウトヤ島での出来事を体感では全てワンカットで止まることなく描く。

POV形式だったので臨場感は相当なもの。そしてカヤやマグヌスはじめ登場人物たちの「実在感」も良く、8年前といま現在でも微妙に違う若者像をしっかりアダプトしていたかと。
「非常事態でどのように行動するか?」というシンプルな問いで各々の性格がはっきり見てとれるのもまた「没入」させる助けに。

銃撃が始まるまでのカヤの行動が割と体感長くとられていて。
「一発目」が鳴ったときもまだ会話と重なってよく聞こえなかったり、爆竹かと思っていたり。
ようやく「何かおかしい」と確信したのも人が逃げてきたときで。
「日常の中に割って入ってきた絶望」であることが強調されていた。

常に「敵」は見えなくて、デマも出てくる始末(話した人も動転しているから仕方ないことではあるけど)。
銃声はどちらから?「敵」の数は?助けは来るの?
目の前で起きている理不尽に立ち向かわなければならない彼ら。

そんな中で何を大切にして行動していくのか。
「どうすれば生きられるか」はあくまでそのうちのひとつで、「何をいま一番大事にしたいのか」。

追体験する我々の心を揺らす決断の連続。



そんな追体験をさせてもなお、それでも最後に監督は、
「これはドキュメンタリーではない。"実話"でなく、多くの"真実"のうちのひとつだ」
としっかり釘を刺す。そこがとても好き。
「映像の力」の強大さを知っているからこそ、そして観客に犯人と正反対の方向で同じことをさせないための戒め。
主張を押しつけられるところをそうせず/させず、あくまで持ち帰って考えてくれ、と促す姿勢。
作り手の責任を理解していて素晴らしいなと思います。


鑑賞した後はWikipediaでいいからぜひ事件のことを確認して。
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