dm10forever

この道のdm10foreverのレビュー・感想・評価

この道(2018年製作の映画)
3.5
【ど~しちまったんだよ、琥珀さん!!】

なんでかな?よくわかんないけど何故か観てみようかな?と思った一作。

北原白秋って・・・う~ん、童謡の人?本当にそれくらいのイメージ。
人物像はおろか、どの時代の人なのかもあまり知らなかったから、今回映画を観て「凄い人だったのね!」ということは痛いほどわかった(笑)

北原白秋の書く詩は、それまでの抑揚のない言葉の羅列とは明らかに異なり、言葉にリズムがあった。
(ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ)
かれは雨の音をこう表現した。
「そんな風には聞こえないけど・・」
浮気相手のソフィー(俊子)からは軽くいなされるけど、本人は至って平気。彼の頭の中にはたくさんのリズムで溢れていたから。

余談だけど、このソフィー(俊子)を演じた松本若菜さん、めっちゃキレイ!!というかめっちゃエロい表情がうまい。あれは演技ですか?凄いエロい。だけどいやらしくない。大人のエロさですわ。画面に映るたびに目で追ってしまいました。出番が割と短くて残念(笑)

話を戻します。

本作は北原白秋と山田耕作が出会って、合作で童謡を作りましょうというお話、簡単に言うとね。
大森南朋は流石の安定感。別に色男顔でもないけど妙な色気のある役者さん。やっぱり上手いんだろうね。そして対するのが琥珀さん改めAKIRAさんです。
やっぱりちょっと分が悪いかな・・・というか、山田耕作さんの人となりは存じ上げませんが、少なくとも「ドイツ帰りの音楽エリート」には見えないかな・・・。知的な空気感がちょっと少ない(バカっぽいって意味ではなく、決して)。悪くはないけど、ピアノで作曲しそうな雰囲気が画面からはあまり感じなかった。

そもそもLDHって「たたら侍」もそうだけど、「和」のテイストに手を出したがるよね。
演技の幅を見せようという感じなのでしょうか?
同じ日本人だから簡単そうだけど、時代によって全く生き方が違うし、実は相当作り込みがないと演じきれないまま「ドボン」となる可能性が高いと思うんだけど、果敢に挑むよね。

で、今作は「ドボン」かという点ですが、そこまでは悪くない。
脇を固める俳優さんたちがいい意味で作品をリードしていたので、変にLDH色も強くなく、作品を通して流れる穏やかなテンポは最期まで壊れることなく続いていた。

「童謡を作って欲しい」

時代は白秋をいいタイミングで必要とした。もともと子供のように純粋な心を持つ白秋は子供の為の童謡が次から次へと頭の中に湧いてきていた。
初めての山田との共作となる「からたちの花」は素晴らしい出来であったが、それでも「芸術性が高すぎる。童謡は子供が口ずさめるものでなければならない」という信念を山田にぶつけます。
そして出来たのがあの名曲「この道」でした。

しかし、その頃日本では治安維持法が制定され、人々からは徐々に自由が奪われていきました。子供の為のはずの童謡ですら「国威発揚」の道具として位置づけられていきます。

生きるためと軍からの作曲依頼を受ける山田に対し、そんなものは作れないと断り続ける白秋。しかし、彼に仕事を選り好み出来るほど余裕はなかった。
奪われていく日本人の心の歌・・・。
気が付けば自身が尊敬する与謝野晶子ですら国威発揚のような詩を詠むようになっていた。
以前は「君、死にたまうことなかれ」という詩を詠んでいた彼女が・・・。全ては時代がそうさせてしまったのだ。

「『この道』とはどこの道のことなんだい?」
山田に問われ、北原はこう答える。
「故郷」
「でも君の故郷に白い時計台はないぞ」
「そう、あれは札幌だ。故郷の場所はどこだっていいんだ。それぞれの人々にとっての故郷を思ってこの曲を口ずさむ。それでいいんだ。」

北原は最期まで童謡に拘った。童謡とは「子供の為の歌」であるのと同様に、誰でも口ずさめる歌として、大人も子供もなく一緒に歌える歌なのだ。そしてそれを一緒に歌える時代こそ平和な時代なんだと思う。北原白秋の作った童謡にはそんな思いも込められているのではないだろうか。
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