スクラ

博士と狂人のスクラのレビュー・感想・評価

博士と狂人(2018年製作の映画)
4.0
<どちらも博士であり、どちらも狂人>

予告編を観たときは、博士=マレー博士(メル・ギブソン)、狂人=マイナー(ショーン・ペン)だと思っていたけど、実際観てみると、どちらも博士であり、狂人だと感じた。

マレーは独学で学んだ身で博士号を持っていないから、アカデミアの定義からすれば博士ではない。マイナーはアメリカ人の元軍医で当然、言語学においては博士でもなんでもない。
それでも、マレーもマイナーも言語に対する知識量、そして、言語を体系化し、辞典を編纂することに対する想いは、正統な博士たちに決して劣らない(むしろ、凌駕している。)。だから、マレーもマイナーも学者から言わせれば、博士ではないけど、博士に匹敵する才能を持った人だった。

そして、どちらも狂人だった。マイナーは勘違いから赤の他人を殺してしまうが、精神を病んでいるとして、病院に収監されている。収監後も自分の命を狙う者がいると妄想に捕らわれ、確かに狂人と言えよう。一方で、マレーが辞典の編纂のために出したアイディアもその作業に没頭する姿ももはや「狂っている」と表現しても過言ではない。

だからこの物語は、博士と狂人の一見すると相反する者同士の物語ではなく、どちらも異端者である2人が辞典の編纂を共通点に出合い、友情がうまれる物語だった。
マレーは自分もアカデミアにおいて、異端児だからこそ、殺人を犯したマイナーを軽蔑すること無く、彼の知識量に対して素直な敬意を示すことができたんだと思う。

言葉が膨大に存在することから、しばしば辞典は言葉の海を渡る舟と表現され(この言い表し方の起源も気になった。)、作中でもそのことに触れられている。辞典の本質を「舟」と捉えて、大海原を揺蕩うような印象を与えるサントラがとっても気に入った。
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