シャチ状球体

華氏 451のシャチ状球体のレビュー・感想・評価

華氏 451(2018年製作の映画)
3.1
レイ・ブラッドベリの同名小説の映画化で、トリュフォー監督じゃない方の作品。

まず驚いたのは、原作と違って部隊が近未来は近未来でも21世紀から見た近未来ということ。
タッチスクリーンや電子スクリーンなど、20世紀には存在しなかった機器が複数登場する。
ネットはあるのにどうして古い媒体である本が糾弾されているのだろう……。独裁政権によって国内ではインターネット接続が禁止されている設定にすればまだ不自然じゃなかったのに、これなら別にこのタイトルじゃなくてもよかったのでは。
だって、華氏451度って書籍が燃える温度だからこそタイトル自体が風刺になっているのに、この映画ではパソコン等の電子機器も燃やされるのでこれならオリジナル脚本&タイトルにすればいいような……。

あと、原作小説において書籍の購入や所持が禁止され、見つかれば政府直属の"ファイアーマン"に燃やされてしまうという世界観の最大の魅力は、紙という唯一のメディアが検閲されることで一般市民は政府広報のニュースしか情報しか得ることが出来なくなるディストピアを描くことにあったと思うので、複数のメディアが存在する現代以降を舞台にすることでその深刻さが薄れてしまっているのは大きな欠点。

ついでに、主人公の自室等がサイバーパンクのような赤や青を基調とした電子的なデザインになっているのもあまりにセンスがない。ジャンルとしてのサイバーパンク自体は好きだけど、原作が出版されたのはそれを確立した『ブレードランナー』より29年も前なんだから、古典的なディストピアSFの映像化としてもっと個性的で他とは異なる近未来的美術デザインの仕方があったのではないだろうか。

どうして2018年に生きている人が毛沢東語録を読んでいるのだろう……。
主人公が政府の仕事に疑問を抱いていく描写も適当だけど、火炎放射器を放射するシーンだけは爽快で良かったです。やっぱりこの映画、劣化版ブレードランナー&1984……
シャチ状球体

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