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告白小説、その結末のNightCinemaのネタバレレビュー・内容・結末

告白小説、その結末(2017年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

エマニュエル・セニエ演じる主人公デルフィーヌの詰めの甘さに終始ハラハラさせられる展開。

そして、エヴァ・グリーン演じる謎めいた美しい女性『エル』は、物語が進むにつれデルフィーヌの心中を映し出すかのように、デルフィーヌに似ていく。最初の方で同じブーツを履きはじめ、その後同じ赤毛になり、ファッションもいつの間にかそっくりになっていくのだ。

最初は『エル』が実在するという見方しかできておらず、「あーこのままだと完全に生活をのっとられるな…最後殺されるのでは…」ぐらいにしか思っていなかったけれど、途中から180度違う方向へ感覚を持って行かれる感じ。

一番奇妙だったのは、デルフィーヌという人物が「死」をイメージさせるということだ。何をしていても生気がなく、少し動くとすぐ疲れて寝てしまう。人生を放棄している感じ。一方で『エル』は「生」をイメージさせます。エネルギッシュで自信にあふれ、人生の舵を取ろうとしている感じ。

『エル』は、もう一人のデルフィーヌなのだと思います。デルフィーヌは自殺した母親を描いた小説がベストセラーとなったけれど、母親の死以外にも実は壮絶な過去があった。あのデルフィーヌの数々のアイディアノートに記された「過去」というのは、おそらく中盤、2人が旅行に向かう車の中で『エル』が自身の過去としてデルフィーヌに語った内容なのでしょう。

彼女は死にも値する深い悲しみの中で生きていた。そしてある時、自身の「心」「過去」(=『エル』)と対峙し、死に値する苦しみとトラウマを乗り越え、それを生きる力へと転換し、壮大な『告白小説』を世に送り出した。その瞬間、デルフィーヌは『エル』に生まれ変わった。最後に真っ赤な口紅を塗り自信たっぷりに微笑んだ彼女は、『エル』そのものだった。

「深い悲しみを生きる力に変える」「過去を乗り越える」というテーマは言葉にすると何となく陳腐に聞こえてしまうし、その分、分かりやすく感動を呼ぶものだと思うのです。けれど、そうしたテーマでありながら分かりやすいもので終わりにさせない所がこの映画の魅力だと思います。

ひとりの人間の中に存在する「過去」「未来」二つの人格の対峙によって、過去の自己が死に、新しい自己が生まれるその過程をとても深く(えぐりながら)描いている。えぐられているうちはその不快感に目をつぶりたくなるけれど、それこそが何かを乗り越えようとしている人間の感覚なのだと思います。

実際、この映画でホッとできる瞬間はラスト3分ぐらいでした(笑)
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