mai

チワワちゃんのmaiのレビュー・感想・評価

チワワちゃん(2018年製作の映画)
4.3
とにかくとにかくとにかく良かったです!
岡崎京子さんのが好きで…最近よく映画化されるのですが、ヘルタースケルターが個人的にどうしても合わず…チワワちゃんも予告編見る限り極彩色満点の映像で、ヘルタースケルターの二の舞にだけはならないで欲しいなとビクビクしながら観に行ったのですが、観に行って正解でした!
キャストから演出から…原作の雰囲気は受け継ぎつつ、映画として新しいストーリーが作られてて、凄く良かったです。原作にはない話が入っていたり、新しいキャラクターが追加されていたり…でもそのストーリーやキャラクターのおかげで、漫画では空白になっていた部分が、良い意味で埋められていたように感じます。

ミュージックビデオのような色鮮やかな世界観なのですが、そこで踊りまくる若者達の切なさ?というか儚さというか…が表現されてました。
一緒にたくさんの時間をチワワと過ごしたけれど、その時間は「青春」という一言で語りつくせてしまうほど内容自体は薄い時間で、彼女・彼らはお互いの核の部分を本当に知ってるわけではない…今回の語り手であるミキもそこの部分で、自分達は本当にチワワと仲が良かったのかな?本当に友達だったのかな?と疑いを持ちます。チワワにとっての私達とは?私達にとってのチワワとは?…コピーライターにチワワのことを聞かれるたびに思い出されるのですが、楽しい瞬間もあれば苦い瞬間もあって、そこから派生した「チワワのことを知るのは今しかできない」という思いがミキを動かします。
彼女の死に意外と淡白な様子の子もいれば、ぐしゃぐしゃに泣く子もいて、反応は様々なのですが、みんなチワワに対して何かしら個人的な感情を持ち合わせていたのは確かでした。それが嫉妬だったり憧れだったり、忌み嫌うものだったり…形は様々ですが。
チワワが本当は何になりたくて、何をしたかったかは最後までわかりませんが、でも「スキスキチョーダイスキ」と言ってのけたり、いつも自分に向けられる感情に飢えていたり、つかの間危うさを醸し出したり…そんな、愛を無意識に求めていたチワワのことを、仲間達はみんなそれぞれがその人なりに愛していたのだと最後のシーンで感じました。
好きだった吉田くんも取られて、目指してたモデルにもすんなりとなれて、いつでも輪の中心に入っていけて…ミキにはないものを全て持っていたようなチワワに対して、ミキは嫉妬するのですが、そんなミキにとってもチワワは代えのきかないような存在だったのです。

時間を持て余すに持て余して、その時間で何ができたかが勝ち!みたいな、そういうのが「若者」だと思うのですが、そういう時間って実際はあってもなくってもどっちでもいいようなもので、チワワの言ったように「こんなに楽しい時間を過ごした仲間だから、これからずっとこの人達と仲良くできるんだろうな」って予感は物の見事に崩れ去るわけです。それはそうですよね、だって彼らの集まった理由は「楽しい時間を過ごす」なわけですから。でも、実際はその時間を過ごすうちに仲間に対しての感情も深まっていくわけで…気になりつつも、なぁなぁにしちゃう前に誰かがチワワに連絡とってたらと思うのですが、多分彼らみんな同じこと思いますよね。
チワワが青春を体現してるキャラクターだとすれば、ミキやヨシダくんは「青春の終わり」をうっすらと感じてるような人で、自分は何にでもなれるし、何でも手に入れられるっていう感覚が2人からは徐々に抜け落ちていきます。それは、チワワという青春を知れば知るほど深まっていくように思いました…そして、最後の2人でのシーンは完全なる青春の終わりを宣告していました。本当、みんなの青春とともにチワワがいなくなってしまったようてました。

なんというか…岡崎京子さんの作品って、言葉に出来ないけど分かる!っていう曖昧な感情を描くのに長けていて、今回の映画はその雰囲気を保ちつつ、でも映画としてのオリジナリティも出していて…バランスがすごく良かったです。
それに、キャスト陣集めのためにいろいろなところにアプローチかけたんだなって分かる、素敵さで…。NGはないの?っていうくらい、良い意味で体当たりの虚しい演技ができちゃう門脇麦に成田凌。そして、意外と演技も違和感なく出来ちゃうんだっていうダンサーの仲万美にモデルの玉城ティナ。そして、安定の村上虹郎。さらにさらに、そんなちょい役でいいの?!という浅野忠信と栗山千明、松本穂香。
最後に、最強に可愛らしくって(その可愛らしい生まれながらのカリスマ!みたいな女の子を演じれるのかなって思ってたのですが)みんなが釘付けになっちゃうチワワちゃんを演じ切った吉田志織。
今回の映画の主役は門脇麦ですが、この映画に爪痕を残したのは紛れもなく吉田志織です。頭空っぽなのかなってくらい陽気で気さくなチワワちゃんなのに、ふとした時に真理をついたような発言をする…一番流されてるようで、実は意外と察している。そんな、すんでのところで掴みとれない人物像を演じ切ってました。そんなカリスマのようなチワワちゃんを演じきってて、本当に凄かったです。

海外作品で「スプリング・ブレイカーズ」という映画があるのですが、それと似てるようで、この映画は若者の薄っぺらさに含まれている若者なりの悩みやらの感情をぎゅっと詰め込んでます。
確かに出てくる若者達は、意外と感情に身を任せがちで、なんとなく薄っぺらくも感じるし、映画になるとミュージックビデオのような綺麗なだけの映像に見えてしまうかもしれません…でも確実に、この映画の中にはその薄っぺらさの裏にある若者なりの感情が織り込まれてます。だからこそ、惹きつけられるのだと思います。
ぜひいろんな年代の人に見て欲しい映画です。
mai

mai