吉

氷上の王、ジョン・カリーの吉のレビュー・感想・評価

氷上の王、ジョン・カリー(2018年製作の映画)
4.5
フィギュアに詳しくないと監督自ら語っているが(フィギュアファンとしては少々不満な演技ブツ切りの原因はそれか)、ドキュメンタリー作家としての腕前は確か。映像、写真、手紙、本人を直接知る関係者の証言によって淡々と描いていく手法ゆえに、ジョン・カリーの表現者として、また一人の人間としての光と闇がくっきり浮かび上がる。特に後半、破綻していく彼がショーに出たくなくてとった行動が語られる場面のクラウンメイクをした無表情のショットは忘れられない。カンパニーの最後の作品となった作品『ムーンスケート』は、何かを求めて行きつ戻りつ、逡巡し懊悩し、それでも求め続けずにはいられない人間の姿を描いてただただ美しく、それゆえに癒しや慈しみも感じられ、そこに重なる言葉にも涙が止まらなかった。
十代のカリーがお小遣いで買ったバレエ音楽のレコードを大喜びで見せると、父親はがっかりして「もっと実のあるものを買え」と言ったという。その逸話にも通じる、映画の最後にインタビュアーがカリーに向けた質問。「何か社会貢献をした訳でもない、あなたの功績とは何ですか?」これに対するカリーの言葉には、芸術を愛するすべての人が心から頷くのではないだろうか。
歴史に埋もれていた偉大なスケーター、ジョン・カリーの記録映画が後世に残った意義は大きい。自分にとっても一生心に残る映画となった。
吉

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