垂直落下式サミング

ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.0
「さらなる強敵があらわれて、一味が危機に陥り、仲間との絆が試される」ってのが劇場版のお約束だったが、酸いも甘いも共にしてきた仲間を失ったとき、主人公はどうするか?そこにまで踏み込んだ異色作が、オマツリ男爵というエピソードだ。
島に踏み入れた仲間たちがしょうもないことで仲違いをはじめて一味がバラバラに、さらに黒幕の策謀によって他のクルーを全員失ってしまう。
本当に仲間を失ったとき、主人公はどうするのか?という展開は、確かにONE PIECEという作品テーマそのものを問い直しており、そこをもって異色作として評価できる。
かわいそうなルフィ、ひとえにてめェが弱いせいだが…「負け犬は正義を語れねえ。」「弱いやつは死にかたも選べねえ。」実力のともなわない行為に対する冷徹な視点は、原作に登場した敵役たちがよく口にしている。これが今回は主人公側に向けられているのである。
大切な仲間との友情を失っても、新しい他の仲間とまた1からやり直せばいいと、原作だったらあり得ないリアリスティックな締めくくりは賛否あれど、私はワンピースとしてギリ成立している見事なバランスだと思う。
いつもの仲間たちを失って、ショボい奴らといっしょに敵に立ち向かうしかなくなるという展開は、念願だったジブリの仕事を降ろされた当時の細田守監督の心境が反映されているのかも。野暮なんで触れませんけども。
細田守の癖なのか、男女キャラ問わず鎖骨と肩甲骨のラインがえっち。サンジとかゾロはともかく、ウソップにすら、細田作品に出てくるワケあり系イケメンの面影がある。
見所は、スポーツスタイルのナミさんの健康キュート。ショートヘア好っきゃねん。この髪型はアニメ映えしますね。大人っぽくもあり、幼くもある仕草、女の子が自分のかわいさをわかっててやってるようなあざとい感じ、これをアニメーションで描かせたら細田守は世界一だと思う。
ギャグの切れが悪くて、会話劇の爽快感に欠けるのが欠点かな。でも、背景や演出がオシャレでみていて飽きない。噴水を挟んでのチョビ髭とのやり取りとか、子供向けアニメでそこまで凝らなくてもいいよって思う。
冒険漫画職人の尾田栄一郎が作った枠組みに、闇を抱えた私小説家気質の細田守が色を塗る。個性と個性。いま思えば噛み合わせ最悪コンビなのに、作品としてここまでのかたちにしたのはお見事でした。
個性強めの気鋭アニメ作家を船に乗せたら、舵取りまで奪われそうになって、さあ大変。船頭多くしてノックアップストリーム!だからストロングワールドからは、原作者本人が出張ってきたのかしら。
尾田栄一郎が劇場版にも総監修として口出しするようになってからは、こういった作品は生まれづらいだろうと思う。