紅蓮亭血飛沫

マリオネット 私が殺された日の紅蓮亭血飛沫のネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

最初から最後まで、綺麗にまとまっている良作サスペンスでした。

集団強姦された凄惨な過去を持つ主人公の前に、当時の首謀者が使っていた“マスター”という名称を携えながら、携帯越しに脅してくる展開は中々の恐怖。
というか、序盤の集団強姦されるシーンがめっちゃくちゃ怖かった…。
犯行に及ぶ面子全員が身元を隠したいためか、頭部にストッキングみたいなのを被せて不気味な表情を固定したまま迫ってくるんですが、そこら辺のホラー映画とかよりも遥かに恐怖度が増してます。
このような、顔にタイツ、ストッキングを被せて変顔固定する演出はそれこそバラエティ番組の罰ゲームとかによくあるギャグ・コメディとしか認知していなかったものですから、本作通してそのイメージが瞬く間に崩されてしまう程の恐怖を植え付けられました。
今までたくさんのサスペンス・スリラー映画を見てきましたが、ここまで恐ろしい集団強姦シーンはなかったぐらいです。

何より、この冒頭を以って視聴者も「こんな辛い仕打ち・現実から目を背けたくなるのも仕方ない」と脳内に刻み込まれる程の恐怖を叩き込んでくれたのが格別でしたね。
そのおかげですぐさま視聴者は主人公に鑑賞移入する事が出来、あれから長い年月が経ち、名前も買えてひっそりと暮らしてきた甲斐もあって結婚を控える事となり幸せの絶頂…というタイミングで、当時の首謀者から情報を受け取っていると思われし、得体の知れない者から隠し通していたトラウマを抉られる、この流れが実に見事。

見始めた時は、「そんなに苦しむぐらいなら、警察に知らせればいいじゃないか」と当然の帰結に辿り着くのですが、本編通して“警察官が情報を売った事”、“ニュースとして大々的に取り上げられ、マスコミ等の追求で精神的に一層追い込まれた現実”から誰も信用出来ない、頼れない窮地に追い込まれてしまった…というバックボーンがしっかりと備わっていたため、主人公が泣き寝入りする他ない現実に一層己の無力を噛みしめてしまう描写が生きていました。ここも抜かりないですね…。

そんなスリリング且つセンシティブな描写に脂が乗っている本作が、最終的に辿り着いた終着点は“過去に縛られず、今のために行動する”という強い意志。
二度とぶり返されたくない、悪夢よりも辛辣な地獄絵図を前に再び追い込まれてしまう主人公ですが、教師として新しい人生を歩んだ今の自分だからこそできる、自分と同じ境遇に苛まれる生徒を助けようと行動に出ます。
そんな彼女の気高さに背中を押されたように、当時彼女を救うどころか情報を漏らしてカモにした元警察の奮闘っぷりも情けなさがあれど、どこか清々しい。
背負うにはあまりにも酷な過去を抱えた二人が、現実にまで這い寄って来た亡霊を前に過去と向き合い、乗り越えようとする姿勢がしっかりと構成を通して出来上がっていたので文句なしです。

今回の事件の全貌は、ネットが普及した現代社会だからこその未成年が引き起こした“イタズラのつもりだった”という耳にタコができるほど聞いた常套句が全てでした。
現に主人公は精神を著しく蝕まれ、実際に手駒を通して痛めつけられたりとイタズラで済んでいいわけがないのですが、法律上は少年法などが適応され、重い刑罰にはならないのでしょう。
未来がある子どもを守る措置ではあるのですが、どうも釈然としないというか、胸のつかえがとれない消化不良…。
それでも尚、主人公は「イタズラで良かった」と言い切ってしまうのだから、敬意を表すほかないですね。
自分と同じ集団強姦にあった被害者(主人公が手を差し伸べた女生徒)はいなかった、その真相が彼女にとって何よりの救いだったのかもしれません。

男女間の強姦被害における価値観、過去から逃げずに真正面から立ち向かう登場人物、事件の首謀者とその末路…と、全編に渡って無駄のない構成で、終始楽しめました。
実話を基にしたフィクションという事もあり、どこからどこまでが本当なのか私にはわかりませんが、そんな事は関係なしに面白く鑑賞出来た良作です。