カレーライス

バーニング 劇場版のカレーライスのレビュー・感想・評価

バーニング 劇場版(2018年製作の映画)
5.0
傑作。
パントマイムを披露するヘミ。不条理な現実の世界から逃避して幻想の中を生きている。
グレートハンガーを求めて彷徨うヘミに実体のある石(一時的な癒やし)を与えるベン。
小説家を目指していると言いながら「何を書けばいいのかわからない」主人公ジョンス。
過去に固執して社会と向き合えない不器用な父親。
借金を抱え現実離れした衣装で終始スマホをイジる母親。

涸れた井戸の存在を肯定するのは、クレジットカードで借金地獄に陥りながらも幻想に生きるヘミと母親だけ。ローン残高はバーチャルな数字の羅列でしかない。パントマイムのみかんのように「ないことを忘れ」ればいい。

いったい何で生計を立てているのかさっぱりわからない「ギャツビー」みたいなベン。
美容整形して過去と決別。友達が主人公ジョンスしかいない「ギャツビー」みたいなヘミ。
ベンを「ギャツビー」みたいだと断じる主人公ジョンス。実家の周りに拡がる寂れた農地。たった一頭だけ取り残された牛。農業を切り捨てた韓国と、プロパガンダ放送を繰り返す北朝鮮の狭間に暮らす主人公。

「この国はギャツビーだらけだ」
「女っていうのはね、何かとお金がかかるのよ」

主人公ジョンスが小説を書き始めるところで物語が終わるNHKドラマ版。
「何を書けばいいのかわからなかった」主人公ジョンスが、理不尽で残酷な現実社会を、彼なりに理解し受け入れ、物語を紡ぎ始める。
残された牛は譲渡され、父親には判決が下される。

劇場版ではその後が描かれる。
富裕層の富が蓄積されている「納屋を焼く」ことでルサンチマンを晴らそうとしたフォークナー版主人公。
「ギャツビー」的で享楽的な生き方をするベンをめった刺しにする主人公ジョンス。序盤で描かれたナイフの棚。暴力で社会的制裁を受けた父親。その血統を受け継ぐ主人公ジョンス。
血まみれの暴力は、現実なのか、それとも小説を書き始めた主人公ジョンスの妄想なのか。

『ドライブ・マイ・カー』と双璧をなす村上春樹映画の傑作。
カレーライス

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