架空のかいじゅう

ジュディ 虹の彼方にの架空のかいじゅうのレビュー・感想・評価

ジュディ 虹の彼方に(2019年製作の映画)
5.0
ワガママで不安定でチャーミングでほっとけなくて、表舞台の降りかたを忘れてしまった中年の、哀しみや疲弊と限界の先に、ほんの僅かだけど世界が色を取り戻し心が軽やかになった気もした、みたいな映画の終わり、もう、もう、大好物ジャンルだった。

同年米アカデミー主演男優賞のジョーカーと同じように個人の存在感が傑出している主演女優賞獲得。
ステージパフォーマンスにおいて観客目線ではなく、どアップで映されるジュディの表情、その心境以外にこちらの意識が向かないような周辺世界との断絶は、ジョーカー以上に孤立が機能していると感じて(悲劇の快感すらない)、映画を見ていてこんなに息苦しさを体感したことがあっただろうかと。主演女優賞「だけ」を獲得したことまで良い意味で補正かかって、すげえアカデミー賞絶妙だな!!なんて思いながら見てしまった。

そういや家族がちょっと前フリマだかで30円で「オズの魔法使い(未見)」DVDを懐かしんで買っていたな~帰ったら復習しよう!!とも思いながらの鑑賞。
なのでジュディもレネーも初めましてなのに、何気ないシーン切り取っても「未だ見ぬ輪郭の掴めない名作オズの少女の成れの果て」というヘビーな余白が勝手に付きまとう。

ジュディの心が不安定なときは、ステージパフォーマンスは一見完璧なのにカメラワークや表情、声などに独特の不穏さがあって聴いてて苦しい。選曲もあるのかな。
だからこそか、心が安定した場面での歌声の響きかたが「おや、さっきと違って今度は素直に染みる...」と、音楽映画にしてはフラストレーションで留まらないストレスフルな歌唱パートが多い気がして興味深く聴けた(ポジティブ過ぎる捉え方?)。

ジュディが子どもたちを安心させるときの「方法」に、子ども心や空想力、好奇心を見ながらも、虚構の世界で染み付いたものも同時に感じて、その偏った器用さに胸が苦しくなった。

落ちぶれることで古参との距離感良い意味で縮まる感じとかもリアル~
でも知る人ぞ知る、まだ一定の「商品価値・需要」はある感じもまたリアル~...
あらゆる不快指数さえもいとおしい...


※追記
一夜開けて見ました「オズの魔法使」。80年も前の映画にタイムスリップ。
~虹の彼方に(本作)見た後だと、純粋すぎてつらい初オズ(笑
適当に「世界が色を取り戻し」とか書いたけど、世界の色が...!
~虹の彼方に(本作)の古参ファンのゲイカップルシーン全般のほっこりする作劇感と、オズの旅のお供たちとのコミカルさがどこか通じる気がして、もう一度見たら涙腺持ってかれるポイントかも...