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幸福なラザロのodyssのレビュー・感想・評価

幸福なラザロ(2018年製作の映画)
3.0
【神聖バカは分かりにくい】

英語で言うホーリー・フールのお話です。
少し足りない人間のほうが、なまじ悪知恵がはたらく凡人や小悪党より神様の意にかなった人間である、ということ。
そしてホーリー・フールこそが世界を救う存在なのです。圧倒的なスーパー・ヒーローじゃなくて。

・・・と一応説明はしたのですが、この映画、一筋縄ではいきません。
ホーリー・フールはあくまでフールですから、前半の場面からいいように酷使されているわけです。
19世紀か?と思われる、公爵夫人が小作農を搾取する世界においても、搾取されている農民がさらにホーリー・フールを酷使している。

でも侯爵夫人の息子は母に反逆する過程で、ホーリー・フールに惹かれていくわけです。

前半では侯爵夫人の代理人として農民を搾取していた中年男は、後半では移民たち(外見からしてアフリカ系と分かる)をなるべく安い賃金で雇用するマネージャーをやっています。つまり、本質的に変わってない、ってことですね。

でも、後半ではホーリー・フールは、今は中年男になってしまい零落もしている侯爵夫人の息子を救おうとして、銀行に出かけていく。

かつて農民として侯爵夫人に搾取されていた人たちは都会で下層の暮らしをしているけれど、ホーリー・フールに触発されてかつての領主様の息子のところに出かけていく。

この辺が、つまり、人間関係の複雑さというのか、社会主義的な階級観で善悪を割り切る考え方とは根本的に異なっているところなんでしょう。

でも、それは分かりやすくない。

そう、ホーリー・フールは分かりやすくないのです。
私たち凡人にとっては。
この映画の結末は、だからきわめて示唆的と言えるのではないでしょうか。
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