すあまさえ

存在のない子供たちのすあまさえのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
4.2

ずっと気になってた、存在のない子供たち。

日本でも少し前に似たようなドラマがあったよね。戸籍のない物語。

ほんとうにある話。
日本にも確実に存在している無戸籍の人たち。

どうするのが正解なのか全くわからない。誰にもわからない。このままの毎日が続くなら、生きることに希望なんてない。

ゼインは優しい。
生理がきた妹が嫁にいかないように必死に隠す。ショーツを洗ってあげるし、自分のタンクトップをナプキンとして与える。
いきなりヨナスと2人きりになっても、しっかりと面倒をみる。

ゼインは賢い。
善か悪かで言えば悪になる行為だけど、そこで生きていくための術を知っている。
育ってきた環境の中で、人間は生きる力をつける。


親には憎しみや恨みしかない。
自分を生んだ罪で両親を訴える。
1番優しかった言葉は「クソガキ、出て行け」。

そんな両親よりも、一緒に時間を過ごした妹や、ラヒルやヨナスの方が、ゼインにとってはよっぽど家族なんだろう。

監督やキャストも、似たような境遇の人で配役を探した。演技に嘘がなく、真実を知っている瞳をしている。


ゼインの両親は完全に悪者に描かれていた。たしかに悪い。それは間違いない。
けど、じゃあ両親はどうすればよかったんだろう。どこで生き方を治せば間に合ったんだろう。

裁判所でゼインの母が言った言葉もまた、真実だと思う。
「子どもに食料を与えるためなら喜んで罪を犯すわ。誰にも私たちを裁く権利なんてない」

その訴えに、ゼインの弁護師は何も答えない。
ただじっとゼインの母を見つめる。それでもあなたのしている行為は許されることじゃない。目から言葉が伝わる。


物語は一応、ハッピーエンドで終わる。

ヨナスはラヒルのところに戻ってきたし、ゼインは身分証明書を発行される。
最後の笑顔には、言葉が出てこなくなる。

けど、ラヒルはこれから国に戻ってどうなるんだろう。
ゼインは戸籍を手に入れて、ほんとに幸せになるのかな。

そういう事を考えると息が詰まって、顔を背けたくなる。
これからの人生をどう生きるかは、というか、いつも人生は自分次第なんだろうけど、自分の人生を必死に生きること自体が、とてつもなく難しい。


正直、こういう映画を観て、自分はすごく恵まれてる環境なんだからもっと頑張らなきゃ、って、そんな素直に前向きでキレイな人間じゃ私はないし。
人それぞれ葛藤や苦悩は違う。

けど、こういう世界がある。
こういう人たちがいる。
それを知っているのといないのでは、明日を見る目が違ってくると思う。
すあまさえ

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