KnightsofOdessa

帰れない二人のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

帰れない二人(2018年製作の映画)
4.9
[火山灰はいつも最高純度の白色だ] 99点

大傑作。チャオ・タオとリャオ・ファンほどこの映画に適した女優/俳優がいるだろうか。第一部では、行く先々で行動を共にしながら決して目線が合わないことを、射撃練習のシーンに顕著な"共に同じ方向を向いている"という誤認まで持ち込む。夜の襲撃シーンなんか最高で、窓ガラスを突き破って拳が飛び出るし、チャオ・タオはリャオ・ファンを観ながら発砲するがその視線は第二部の終わりまで回収されない。第二部は、藁しべ長者的に得られたアイテムを駆使して行方不明扱いのリャオ・ファンを探し当てるパートだが想像以上にブラックユーモアに溢れている。なぜか体の前にリュックを掛けるチャオ・タオの姿は完全に妊婦のそれであり、決して手に入れられなかったリャオ・ファンとの愛を抱えたまま彼を探す旅を続け、彼と別れた後も抱え続ける。第三部では動かない男と追いかける女という構図を繰り返してきた映画の総決算として車椅子という視線も合わないし動けないアイテムを持って来て、ある種の結末を暗示させる。時代の変遷についてもそこかしこでスマホを画面に写すことで現代性を帯びさせる。

無銭飲食中にペットボトルで乾杯するとこ、詐欺師のおばちゃんを助けて叩くとこ、急須でおっさんの頭を叩いてメガネがズレるとこなど最高なシーンも多く含みながら、ところどころ必要悪な冗長さが本作品を長くしてしまっているように思える。これが2時間だったら傑作になったのか、2時間半だからこのレベルなのかは微妙なところ。UFOが一番いらないんだけど、一番いるのが悔しいところ。

これで漸く昨年のカンヌ映画祭のコンペ選出作品を全て見切ることが出来た。野良で審査員をすると1年半は掛かってしまうようだ。昨年観た『寝ても覚めても』『COLD WAR』『アイカ』を含めた全21本のうち、超個人的なパルムドールは『Summer』にあげたい。グランプリは『Knife + Heart』、審査員賞は『COLD WAR』、監督賞は『バーニング』、脚本賞は『幸福なラザロ』、男優賞と女優賞は一緒で『ドッグマン』と『アイカ』。
KnightsofOdessa

KnightsofOdessa