まつけん

バハールの涙のまつけんのレビュー・感想・評価

バハールの涙(2018年製作の映画)
3.8
バハールの涙 2018年フランス (日本公開は2019年)
※Amazonプライムで観れます
 映画館で観ようと思っていて結局観なかった映画だったので最近追加された?お陰で鑑賞。
 監督が取材をする中で、実話を基にして作られた、ISに抵抗するクルド人女性武装集団のとある女性リーダーのお話。
 映像の建付けは、クルド人女性弁護士バハールが武装集団として立ち上がっていくまでの話と、まさにその時の戦いを追いかける戦場記者マチルダのある意味ドキュメンタリー風&語りで出来ている。
 戦闘シーンはすごい激しい訳ではないし、目をそむけたくなるシーンはないですが、バハールの演技に吸い込まれて、過去と今を行き来する映像の中で、どれだけ辛い体験をしたのか、そしてどんな覚悟を持っているのかがヒシヒシと伝わってきます。見ごたえのある映画かと。

 もう少しストーリーを描くと、イラク北部のヤズディ教徒の家族が住むクルド人自治区にISが突如襲撃。フランスに留学していた女性弁護士のバハールは、家族(夫&息子)と共に里帰りをしていた。目の前で夫は殺され、女性と少女は拉致・性奴隷として売買され、男子はIS戦闘員として離れ離れに。バハール自身、何度も各地を転々と売買されながら、一縷の望みで逃げ出すことに成功。
 同じ境遇の女性たちと共に、何とかISから息子たちを取り戻すことを目的に立ち上がる、「太陽の女たち」という女性戦闘部隊リーダーとして。そして息子がいるという学校の制圧に向かう様子をフランス人ジャーナリスト・マチルダが、男性記者も逃げ出すような最前線で、なぜ女性たちが前線に立つのか、その源がなんなのかを取材していく。

 まず映画については、バハール役のゴルシフテ・ファラハニが素晴らしい。2015年の「世界でもっとも美しい顔100人」の中で5位に選ばれたイラン出身の国際的女優。過去の奇麗な女性弁護士時代から、戦うことに集中する女性戦士の顔まで実に見事な演技。
 そして、記者のマチルダ。同2019年の映画、プライベートウォーでメリー・コルビンの半生をおったほぼドキュメンタリー風映画は映画館で観たのだけれど、まさにその人がいた。眼帯の女性ジャーナリスト。片目を失った戦地とかの設定は少し違えど、男性記者がしり込みするようなところにこそ、伝えるべき真実があると、PTSDを抱えながらも最後までバハールを追いかけ続けるジャーナリスト魂は、プライベートウォーを思い出させた。

 ここからは、自分のためのお勉強。クルド人って分かるようでわからない。ヤズディ教ってなに?
 イラクのお隣、シリアでは「アラブの春」に触発された民主化運動をアサド政権が弾圧したことで内戦へと発展。そこにイラクとシリアにまたがる国家建設を目指すISなどのイスラム過激組織が加わり、アサド政権、反政府組織、イスラム過激派の「三つ巴」の展開が起こる。元々アサド政権を倒すため、表向きはIS掃討のために政府勢力を支持してきたアメリカがシリア国内のクルド人民兵組織「人民防衛隊」(YPG)を連携相手として選び、軍事訓練や武器供与などを行った。
 クルド人はシリア、イラク、トルコなどの国境地域にすむ中東の4カ国を中心に計3000万人とされる「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれ、自治区を広げるために武装闘争を続けている。その結果、イラクにまたがる建国を目指すISとクルド人はシリアに限らず攻撃対象の的になる。
 そもそもなんでクルド人は自国の国を持たなかったのか。歴史的にアラブ・トルコ・ペルシャなどの大帝国の支配下に置かれ、そのころは一つの地域として、クルド人が住むエリアが地方国家のようにあったが、第一次大戦でオスマントルコが破れ、イギリス・フランス中心にクルド人の住むエリアを無視して領土分割がされたためにバラバラになってしまった。ばらばらになって100年も経つため、実は各国のクルド人も決して一枚岩ではないらしい。
 ヤズディ教とは、イラク北部の一部のクルド人が信仰している宗教で、ゾロアスター教やユダヤ教、イスラム教など色々な宗教の影響を受けているらしい。信者の改宗はNGで、ヤズディ教徒から生まれた人しかヤズディ教徒になれないとか、布教活動も行われていないとか…。ちなみに3つのカースト的階級制度を持つ。彼らが崇める天使マラク・ターウースという神様が、イスラム教のサタンに重なるとかで、邪教扱いとして、しかも改宗もNGなので、ISからはかなりの迫害を受けているらしい。
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