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アメリカン・アニマルズのトレバーのレビュー・感想・評価

アメリカン・アニマルズ(2018年製作の映画)
5.0
素晴らしい。

実際にあった、4人の大学生がアメリカの片田舎で起こした
大学図書館の時価12億相当の本を狙った強盗事件を描いた作品ですが、
この作品がまず通常のケイパーもの(犯罪、盗み)
と違う部分は、実際の犯人達や事件に関わる人物が、ストーリー上で
過去を振り返り語る形で登場するという所で、
後述しますがこれがこの映画において大きな意味を持ってきます。

ケンタッキーの大学でそれぞれ燻っていた4人。

美術の才能を評価されるが自分自信には確かなものがなく、
これからに不安しかない、家族を大切に思う気の弱いスペンサー。

スポーツを評価され奨学金入学したが、ここは自分の居場所ではないと苦しむ、
無軌道に振舞い、友人達を巻き込み犯罪を結果
主導する事になるウォーレン。
(スペンサーとは家族も含めての付き合いがある悪友で、ちょっとした悪事に巻き込む日々だったのですが。親が上手くいってない事に心を痛めているのを対照的に描かれています。本当は進んでやりたくは無かったスポーツを、親の期待に応えようという気持ちだけで頑張っていたのが分かるのが切ないです。余談になりますが、本人の方が演じたエヴァンピーターズよりイケメンで、言わばワイルドにした福山雅治みたいでしたw)

FBIを将来に見据えられるほどの秀才ですが、
一匹狼を気取りながら孤独な気持ちを抱えているエリック
(犯罪に加担した最大の理由が、些細な事で仲違いしたウォーレンと仲直りしたかったというのがまた切ない、、、)
地元の名士の息子で、すでに自身も事業を成功させるほどなのですが
基本的に脳筋野郎なチャズ。

この4人が着々と集まり、蔵本強奪の準備をしていくまでの流れは
まさにケイパーものの醍醐味が味わえます。
レザボア・ドッグス等ケイパーもの映画から学ぶあたりも
学生ノリがこいつらバカだなーと見てられます。

ここまでは、何もまだ手にしていない、未来も
見えてこない片田舎のどん詰まりで燻った学生達の、
やろうとしている事は犯罪ではありますが、
監督のスタイリッシュかつ確かな演出も相まって
よく出来た青春ものとして楽しく観られてしまいます。

ですが、強奪決行から様子は変わってきます。
ボクは、こんなに見ていて辛くなる強奪シーンを
映画で観た事はありませんでした。
犯罪を計画し、あくまで皮算用として進めていく
いわば能天気さと甘さ、実行し直面するさまざまな
事態の、普通の人ならば躊躇ってしまったり辛くなる局面。

そう、彼等は退屈でクソで未来の見えない現状をぶち壊したかっただけで、
人を殺めるどころか暴力を振るう事も躊躇う普通の4人の学生なんです。

そこに気付かされると、途中で織り込まれていた
事件に関わった本人達、家族、被害者が語るシーンが効いてくるのです。
これは実際にあった出来事なんだ、罪を犯した人も被害者もいるんだと突き付けてくるんです。

そして、観ているこちらが、フィクションという形ではありますが
躊躇なく行われる犯罪行為、暴力に慣れてしまっている事を思い知らされるのです。

この映画が、ケイパーものとしては派手ではなく
盗む楽しみもない、その上ドキュメントも織り交ぜられているから
気持ちの置き所が無く評価出来ない、という批評を
目にする事があるのですが、
それこそこの映画が目指した所なのではないでしょうか。

安易で短絡的な犯行は当然最悪な結果を生み、
被害者や家族を苦しませ、本人達は罪を償い、

人生は続くのです。

逆説的になりますがケイパーものの傑作であり
ほろ苦い青春ものの名作になっていると思います。
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