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天国でまた会おうのmaiのレビュー・感想・評価

天国でまた会おう(2017年製作の映画)
3.8
戦争シーンや実際の親子関係、不正などなど…取り上げる舞台はリアリティがある一方で、演出はどこまでもおとぎ話のようなどこか現実味の薄い華やかなもので、すごく素敵な世界観でした。

戦争の砲撃を受けて顔の半分を失ったエドゥアールと、そのときに助けてもらったアルベールは戦後も行動を共にしています。そして、そこに近所に住む少女ルイーズ(エドゥアールの理解者)が加わって行う「戦没者記念碑詐欺」が過去の中尉との因縁やエドゥアール父子の禍根と交差していきます。

ストーリーはすごく駆け足で、かつ語り手が話の中心になるエドゥアールではなくアルベールなので、エドゥアールの心の底は推し量るだけにとどまり曖昧な形のままで話が進んでいきます。そのミステリアスな感じがまたたまらなくいいのですが。
ピエール・ルメトールの作品では「その女アレックス」しか読んだことがなかったので、それとは全然テイストの違う今作は意外性もあったけれど、素敵な世界観でした。
生き埋めから九死に一生を得たアルベールと、足を踏み外したせいで生き埋めになって死んでしまう中尉。
自国への強制送還は免れないような状況で、中尉に息子を殺された親に行き当たるアルベール。
冒頭のシーンやストーリーをラストでもう一度使うあたりが好きでした。
ラストも孔雀のような仮面を被った意識朦朧としたエドゥアールが父に再会する…そして「自由だ」「誇りに思ってる」と本音を語る父に涙を流し、「ありがとう」と告げます。そしてホテルから飛び降りるんです…展開が劇的すぎて衝撃を受けたけれど、彼の姿は飛び降りたというよりかは「空を飛んだ」に近くて、彼を縛ってた父との関係やらなんやらかんやらがやっと清算できて自由になれたのだなぁと感じました。思えば、結婚や豪邸での暮らしなどの幸せを夢見ていたアルベールに反して、大金を稼ぐ詐欺を企てながらもその使い道は不明で目的自体が不明瞭だったエドゥアールだったので、もしかすると彼の原動力には多かれ少なかれ自分をこんな状況に追いやったものへの復讐心(というほど復讐に燃えてたわけでもないですが)や仕返ししてやろうって感情が関わってたのかもしれないなぁと思いました。
その負の感情からふっと解き放たれた瞬間がラストシーンだったのだろうと。原題の「see you up there」そのままな感じです。
「また上で会おう」って、そう言い残してエドゥアールは鳥になって空へ舞い上がったのかも…とか思ってしまいました。

そしてなんといってもこの映画の魅力の1つが装飾です。
黄色いカナリヤのようなアルベールのスーツに、少女のアラブの国から出てきたような服、そしてエドゥアールの作る幻想的(だけど、一歩間違えると悪趣味に転じてしまうような)で独特の仮面。とにかく登場人物たちの身につける服に小物に…どことっても綺麗で華やかで絵本の世界でした。
さらに、エドゥアールの実家もこれでもかってくらいに綺麗なんです。品良く、けれど華やか。素晴らしすぎました。

あとエドゥアール役の人の瞳の色がすごく綺麗だったし、少女役の子のふっくらした感じも好きでした。
セリフもユーモアに富んでいて、生活音とかセリフにもリズムがつけられてる部分が多くて心地よかったし、テンポ良かったです。

リアリティとおとぎ話的世界観を織り交ぜた不思議な感覚のする作品で、何度でも見直したくなる映画でした。
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