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恋をしましょうのsowhatのレビュー・感想・評価

恋をしましょう(1960年製作の映画)
3.0
【惜しげもなく与える菩薩様は鳥籠に収まらない】

マリリン・モンローが残した映画の中では後ろから数えて2本目、キャリア終盤の作品です。

1960(S35)の公開時に主演のマリリン・モンローは34歳、イブ・モンタンは39歳。

イブ・モンタン演じるフランス人、クレマンはニューヨークを拠点に世界中でビジネスを展開する代々の大富豪。何不自由ない彼の不満は、付き合う女性がみな彼の金目当てに思えてしまうこと。そんな彼がある小劇団に足を運んだことがきっかけで一人の女性と出会い、物語が始まります。

マリリン・モンロー演じるアマンダは夜間高校に通う小劇場の舞台女優。学業と仕事の両立のため夜遊びもせず、趣味は編み物、父は牧師、性格は天真爛漫。初対面のおっさん(クレマン)に対しても最初から心を開いて接してくれます。彼のことをボードビルショーのオーディションにやってきたモノマネ芸人と勘違いした彼女は彼に対しアドバイスを惜しみません。食事に誘えば「割り勘にしましょう」。

そんな彼女に一撃で夢中になったクレマンは、貧乏な喜劇役者を装い劇団に潜り込み、なんとか彼女の心をつかもうと四苦八苦。フランスのスターであるイブ・モンタンが、歌も踊りも満足にできない無芸の男を演じ、金でジョークを買い、有名人を雇いレッスンを受けダメ出しをされる、そのあたりのドタバタが見どころといえば見どころでしょうか。本作は批評家からの評価は得られなかったようですが、マリリン・モンローがフィルムに残した歌と踊りは令和6年の今観ても、まったく色褪せていません。

彼の恋敵役のトニー(フランキー・ヴォーン(32))は歌って踊れるけど売れない若者。将来への不安のためか、酒に溺れています。そんな彼のことを甲斐甲斐しく面倒見るアマンダ。それを苦々しく見つめるクレマン。クレマンは自分の本当の姿を明かしアマンダに求愛、彼女はそれを受け入れハッピーエンド。映画はここで終わりますが、このあと、結婚生活に入った二人の関係がうまくいかないのは予想がつきます。

本来の男女関係は自我と自我のぶつかり合いであり、結婚生活は一夫一婦制の独占欲と契約により成り立つ生活です。アマンダという個性がクレマンの枠に収まることはないでしょう。一方的に与えるばかりでなにも求めず拒絶もしないアマンダというキャラ。途中からまるで菩薩様のように見えてきました。これは愛なのか、それとも同情や憐憫なのか。アマンダには自己保存本能が欠けているのではないか。そんな疑問が湧いてきます。

大スターになっても常に露出の多いコスチューム姿で「自分が求められるキャラ」を懸命に演じ続ける本作のマリリン・モンローの姿に、頭が下がります。脚本陣には当時の夫であるアーサー・ミラーが名を連ねていますが、モンローとモンタンは不倫関係に陥ったとのこと。マリリン・モンローという女性は虚実の境目も一夫一婦制も平気で壊してしまいます。彼女は本作公開の2年後に亡くなっていますが、彼女の2番目の夫であるジョー・ディマジオは「彼女の死後20年にわたって週3回、彼女の墓に赤いバラを捧げ続けた」というエピソードを残しています。
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