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孤狼の血 LEVEL2のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

孤狼の血 LEVEL2(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれて殺害された、伝説のマル暴刑事・大上の跡を継ぎ、広島の裏社会を治める刑事・日岡。権力を用い、裏の社会を取り仕切る日岡に立ちはだかったのは、7年の刑期を終え出所した上林組組長・上林成浩。悪魔のような上林によって、呉原の危うい秩序が崩れていく…。

柚月裕子の小説を原作に、広島の架空都市を舞台に警察とヤクザの攻防戦を過激に描いて評判を呼んだ、白石和彌監督による「孤狼の血」の続編。

前作から3年後(平成3年)を完全オリジナルストーリーで描いた本作は、1作目での大上との師弟関係を経て、マル暴刑事として覚醒した日岡と、凶暴なヤクザ上林との血で血を洗う戦いが熱い、刑事アクションの秀作である。

このシリーズは、役者から製作陣まで気合が入っている。
コンプライアンスにがんじがらめの邦画界に爪痕を残そうとしているのが、良く伝わってくる。
それは、かつて「東映実録ヤクザ路線」で若い役者が名を売ろうとしたギラギラとした熱量に似ている。
息もつかせぬ演技の応酬が繰り広げられ、役者陣の意気込みの強さを感じる。

本作は、大上の遺志を受け継いだ日岡と、死んだ親分の五十子を慕い続ける上林という、次世代を継ぐ若者同士の戦い。
言うなれば「死闘編」である。

前作で新人刑事として登場した松坂桃李演じる日岡秀一が主人公。
日岡は、ベンツを乗り回し、全身黒のスーツを纏ったり、サングラスかけてイキったり、タバコも吸うようになり、風貌や見てくれは、大上のようなガラの悪い不良刑事に変貌したが、中身はまだ「青さ」が感じられる。
ヒロインの真緒の兄弟に小遣いをあげる時や、バディとなる老刑事の瀬島やその奥さんと会話する時、子飼いのスパイ、チンタに見せる屈託のない笑顔。
まだまだ青臭さがにじみ出るのは、幼さが残る松坂桃李なりの役作りか。

対する上林役、鈴木亮平の悪役ぶりが凄い。
上林の突き抜けた極悪非道ぶりは期待以上に絶品。まさに外道中の外道だ。

出所してすぐ、刑務所で自分をかわいがってくれた刑務官の妹を強姦し、目玉を抉る残虐な殺し方をしたかと思えば、強引に脅して組の子会社を乗っ取り、叱りつける仁正会の理事長をアイスピックで一刺しし、チャカ欲しさに五十子会の二代目を監禁するなど、身内にも平気で本能の限り暴力の限りを尽くす。

それもこれも五十子親分を殺された復讐を果たすため、また3年前の一連の抗争を裏で操った刑事を見つけ出し、無念を晴らすため。
過去に虐待した父親を殺し、店の残飯を漁って生き延びてきた男は、暴力で奪い取るしか生きる術を知らない。

こんな悪魔をどうやって止めようかと奔走する日岡も、明らかに刑務官の妹を殺したのは上林だと断言してもいいのに、物的証拠がでないと言う鑑識のせいで、どうにも動けない。
ましてや上林が他の件で色々やらかしてるのに、日岡自身にはそれを追う権限もない。
モタモタしているうちに上林はどんどん悪事に手を染め、さらにはスパイとして送り込んだチンタにも危険が迫っていく。

上林のモデルは「仁義なき戦い広島死闘編」の大友勝利か、「仁義の墓場」の石川力夫あたりか?
どんな権力者でも抑えつけることができない、手綱を掴むことができない狂犬。
欲望の限りを尽くし暴れる存在は、間違いなく邦画史に刻まれる悪役だろう。

それゆえに正直、少年期の回想は蛇足。
あの悪魔も生まれた時から悪魔ではないと、情が沸いてしまう。
死んだ方が良いと思うほどの悪役に同情は不用だ。

前作の回想がセリフだけに留まり、敢えて大上の姿を入れない演出が、頼れる存在の不在感が際立たせ、日岡の信念の揺らぎや孤立感が良くでている。
物語としては連続しているものの、本作だけで独立した作品として見れる要素になっているのも上手い。

日岡と新たにバディを組む、人の良さそうな老刑事役の中村梅雀の意外な裏切り。
チンタを演じる村上虹郎の感じる恐怖と哀れな死に様。
ヒロインの西野七瀬の意外と似合う薄幸な姿、五十子の妻役のかたせ梨乃のかつて慣らした極妻ぶり…と新たなキャストも好演ばかり。
終盤で主役を食う勢いの怪演を見せた嫌味な管理官役、滝藤賢一のキレ芸も素晴らしい。

クライマックスの松坂桃李の満身創痍の演技も素晴らしく、韓国映画に負けない血みどろの対決も興奮度が高い。
悲恋こそないものの、設定と雨の中での対決など「仁義なき戦い広島死闘編」へのリスペクトがたっぷり。
若い力の激突が、今後の邦画界への期待を抱かせる。
コロナ禍で閉塞感の漂う中、沈んだ気分を吹き飛ばす邦画アクションの快作だ。

次作が製作されたら、恐らく「仁義なき戦い代理戦争」よろしく、日岡が後輩を教育する立場になるだろう。
まだまだ見たいシリーズである。
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