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Smile Before Death(英題)のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

Smile Before Death(英題)(1972年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

長年寄宿舎で生活してきたナンシー・トンプソンは、ファッションデザイナーの母ドロシーの死を知らされて実家の屋敷に戻る。彼女は母の2番目の夫の子であり、いずれ遺産を相続することになっていた。ところがそこには、お抱えカメラマンのジャンナが住み着いていた…。

「ハイエナの笑顔」なる邦題から貧しい男性が主人公のクライムものか、フィルム・ノワールを想像して鑑賞。
唐突に血まみれの女性の断末魔に始まり、続いて流れる軽くてポップなオープニング曲に違和感。
冒頭からカルト映画の匂いがプンプンする作品だ。

一体誰がドロシーを殺したのか?というフーダニットなミステリーと、怪しい人物に囲まれる少女のサスペンス。
血と犯罪とエロが混然と混じり合う展開は、ジャンルで言えば「ジャッロ」だ。
二転三転する展開が面白いイタリア産サスペンスの佳作である。

ナンシーが到着した屋敷には、ジャンナの他にドロシーの夫で、没落貴族のマルコがいて、ドロシーの遺産を管理していた。

長い寄宿舎生活で孤独に育ったナンシーは、マルコとジャンナを慕うようになる。
中年のマルコに男性を感じ、抱きついて誘惑する素振りを見せ、カメラマンのジャンナの要求に応じてヌードを撮らせる。
これまで抑圧されていた性の欲求を解放していくかのように奔放に振る舞うナンシー。

ところがある日、マルコとナンシーがボートで湖で遊びに出た時、ボートからナンシー落ちてが溺れかけてもマルコは助けようとはしなかった。
あれ?変だな?と思う中盤からサスペンスが展開していく。

実はジャンナとマルコは、以前から肉体関係を持っており、それを知ったドロシーはジャンナを侮辱し、怒ったジャンナに殺されていたのだったと、早々に殺人事件のネタバラシ。

ドロシーに娘ナンシーがいることを知ったジャンナはマルコと共謀して、ナンシーを呼び寄せて殺し、ドロシーの財産を奪おうとしていたのだ…と、物語は、ナンシーを亡き者にしようとする計画犯罪が成功するか?、はたまたナンシーが母ドロシー殺害の証拠を犯行を暴き、助かるのか?のというサスペンスに転換する。

屋敷の家政婦マグダはドロシーが生前に書いた手紙を発見してナンシーに見せる。
そこにはマルコとジャンナの関係とドロシーの遺産はナンシーに相続されることが書いてあった。
ジャンナとマルコは手紙の内容を知ったマグダを殺害。
マルコは続いてナンシーを殺そうと、ガレージに閉じ込めて車の排気ガスによる一酸化炭素中毒でナンシーが事故死するように工作する。

ところが突然ジャンナが裏切り、マルコはガレージの中でガスで死にかける。
ジャンナはマルコを殺し、ナンシーと遺産を奪うつもりだった。
ジャンナとナンシーのレズビアンな関係を映すカットが入り、ジャンナが自ら裏切ったのか?ナンシーがジャンナを唆したのか?
ジャンナがナンシーを守ることで遺産を巡る争いは終わるかと思われた。

ところが、そこにドロシーの愛人だった若い男がやって来る。
実はナンシーは偽物で、その男はナンシーの恋人。
ドロシーの不審な死に疑問を抱いた男が、屋敷のことを探るために、恋人を偽物のナンシーに仕立てて送り込んだのだ。

男と偽のナンシーはドロシー殺害の証拠となる録音テープを突き付けて、ジャンナとマルコから大金をせしめるというどんでん返し。
ドロシーを殺した悪者であるジャンナとマルコは、さらなる悪人にしてやられる。

だが、「悪銭身に付かず」とは良く言ったもの。
男と偽のナンシーが上手くいったとバイクで屋敷の門を出た瞬間、バイクはタクシーに激突して2人とも死んでしまう。

そしてぶつかったタクシーから本物のナンシーが降りてくる。
死体の傍らでは証拠の録音テープからジャンナとマルコの会話が流れていた…。

性に解放的になった思春期のナンシーが、ジャンナとマルコを手玉に取る。
やたらと脱ぐナンシーのエロスによる誘惑と、遺産を狙った大人との駆け引きはスリリング。
そして実は親を亡くした悲劇のヒロインと思われたナンシーが、実は偽物でビッチだったという、二転三転する脚本は面白い。
結局、悪人は全て罰を受ける結末も痛快だ。

良く良く考えてみれば、厳しい規律の寄宿舎育ちのお嬢様が、あんなにポンポンと裸になるはずがない。
裸になること自体が伏線になっていたのである。
偽ナンシーのエロスが推理から見る者を逸らすミスリードとなっていたのだ。
観客層であろう世の男性の密かな願望を上手く利用している。

オシャレなファッションとインテリアに、絵になる美女と美少女。
画面の絵面はなかなか良い。
しかし、冒頭から繰り返される劇伴が緊張感を削ぎ、憎悪や恐怖など感情を剥き出しにする演技力が俳優陣に無い。
サスペンスの緊張感はあまり盛り上がらない演出が難点である。
ちゃんとリメイクしたらスリリングな傑作になるかもしれない。

川原や道端に捨てられたエロ本を覗き見したようなイケナイ背徳感を感じたのは私だけだろうか?
そんな安っぽい作りのエロティックなミステリーはまさしく「ジャッロ」である。
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