たく

椿なきシニョーラのたくのレビュー・感想・評価

椿なきシニョーラ(1953年製作の映画)
3.7
容姿の美しさから映画女優に抜擢された若き女性の輝かしい台頭ぶりから凋落に至る姿を描く、ミケランジェロ・アントニオーニ監督1953年作品。華やかな世界に翻弄される女性を演じるルチア・ボゼーが、こないだ観た「スペイン広場の娘たち」とは違った艶やかさを感じさせて印象に残る。映画界の内幕を舞台に一時期もてはやされて落ちぶれていく女優の姿は、デミアン・チャゼルの「バビロン」に登場したネリーに重なる。アントニオーニ初期の作品ながら、後年描かれる「愛の不毛」の萌芽のようなものも感じた。

ミラノでブティック店員をしていたクララが映画人のジャンニに女優の素質を見出され、主演作が大ヒットして一躍人気女優となる。ここでジャンニがクララとの結婚話を強引に進め、クララの同意もないままに入籍し、さらに進行中の映画撮影でクララの役が低俗だとして制作を中止させるという横暴ぶりを発揮する。クララが意思の弱さから彼に言われるがままにふるまうのがイライラさせられて、ジャンニの独断でクララを主演に制作したジャンヌ・ダルクの映画が大コケするに至り、ようやく彼から離れようとするも時すでに遅し。

領事のナルドがクララを密かに見初めて、こちらこそ真実の愛かと思いきや、クララがジャンニとの離婚を決意したことを知った途端に引いてしまうのが「男の薄情、女の愛情」の典型。結果的に男に人生を弄ばれた形になったクララが業界における立ち位置を完全に失い、妥協して引き受けた端役のオファーの宣伝写真で写真撮影に応じる引きつった笑顔が虚しい。ジャンニが電話をするシーンで、奥の部屋にいる人物の様子がはっきり見えるパン・フォーカスが印象的。
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