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ビューティフル・ボーイのEditingTellUsのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
3.8
新しい作品。受け入れられ難いかもしれないが、新たなことには意味がある。
7割の期待と3割の裏切り。これは自分が映画を観るうちに感じた、自分の好みの黄金比である。ジャンルや監督、役者、宣伝などから自然と作られる期待。例えば、スピルバーグとトム・ハンクスのコラボレーションだと何となく、どういうテイストなのか想像できますよね。さらに、今ではSNSの影響もあり、他の人のレビューを読んで期待巣をすることも多くなってきたと思います。
その期待に100%応えられた映画というのも、とても面白く、エンターテインメントとして、ストレス発散としては十分に楽しめると思います。アメコミヒーローとかの大半はそうですよね。
一方、人生の礎になるような、「この映画は私の人生を変えました。」「この映画は何十回も観ました。」というような映画は、期待だけではなく、そこに良い意味での裏切りが必要だと思います。ツイストエンディングもその一つですが、思ってた方向とは違う方向にストーリーが進んでいったり、今まででは想像のつかないキャラクターを役者さんが演じたり。そういう裏切りがはまると映画は最大の力を発揮するのではないでしょうか。

本作も大きく裏切られました。予告も見ず、タイトルだけで想像したストーリー。期待通り、スティーヴ・カレルとティモシー・シャラメがいい演技を見せてくれました。そして裏切ってくれたのはストーリーの向かう方向と、編集の仕方。これが正解かどうかはわかりませんが、とても印象が強かった。

ストーリーは家族をテーマにするだけに、ほっこりしたものを想像しました。ちゃんと裏切られました。父親と息子の物語なのですが、どちらの感情で物語が進んでいくのか、どちらの思い通りに物事が動くのかというのが、最後の最後までわかりません。さらには、どこでエンディングを迎えるのかもわからない。そのサスペンス感がとても私の深くまで入ってきました。

そして何と言っても編集。JカットとLカットの応酬。時間軸が3つか4つあり、それらを行き来するため、最初はかなり混乱しました。しかし、必然的に「構成はどうなっているんだ?」と自分からストーリーを探ろうと前のめりになりました。ストーリーがどちらに転ぶのだという2択と、キャラクターが人生において何度も選択を迫られる2択、そしてそれらがうまく噛み合わないもどかしさが、その時間軸を使った編集を使って絶妙に表現されていました。
時間軸のジャンプは、ランダムに起きるのではなく、キャラクターの感情の繋がりを用いて行われます。たとえば思い出だったり、2人のキャラクターの感情のズレを時間軸をジャンプすることで表現したり。かなり、いろんな意味があるのですが、キャラクター中心に描かれているので、見失うことはありません。意識的ではないにしても無意識の段階で感じ取れる。
そして終盤、その時間軸が一つにつながり、父と息子のキャラクターの感情が重なり、遠のいていく流れがとてもスムーズでエモーショナルだった。これは新しい編集の力。

音楽もかなり、ジャンルや楽器を混在させた、チャレンジングなことをしていましたが、これはどうなんだろうか。ちょっと前面に押し出されすぎている感覚もありましたね。

この作品、賛否両論ありそうですが、私は個人的にとっても奥に入り込まれた作品でした。
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