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ビューティフル・ボーイのkaoruiのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
3.5
好きだなー、この作品。
凄惨な物語を端正に誠実に描く。
端正な中に、父親が堕ちていく息子のことで頭がいっぱいで、心ここに在らずな様子を音響で表現したり、息子が徐々に溺れていく描写で注射器で逆流した血に逆らってキュッっと薬物を注入するかなりショッキングな絵を挿入したり、観客を意識したさりげない演出的技巧も心地よい。

特筆すべきは、寄り添いながら毅然と距離を取っていた奥さんが逃げる息子をひたすら追いかけるシーンだ。見通しのきかない曲がりくねった海辺に続く細い道をとり乱した二台の車が疾走する緊張感。
親子の情でどうにかなる問題ではない。センチメンタリズムやヒューマニズムでどうにかなる問題ではない、父親が諦めともなんともつかず茫然としてしまうのと対比して、奥さんのやり場のない感情を運動として表現しており、映画的にエモい。彼女の慟哭が胸に迫る。

けれど全編通して語り口は冷徹といってよいくらい静かだ。
静謐さの中に彼らの抱える絶望、哀しみ、そしてその先にある仄かな温もりに質量が宿る。
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