1938年に出た石川達三の小説『結婚の生態』は当時ベストセラーになったらしく、当時の流行語にまでなったらしい。
特に何か事件らしい事件が起きることもなく、ただただ原節子と夏川大二郎の新婚夫婦の日常が描かれる。もちろん今の目から見たら男尊女卑的で性差別的な表現はあるが、当時としてはかなり奥さん想いの夫と、献身的な妻の仲睦まじい「理想」の夫婦像が描かれていて、昭和版『逃げ恥』感があった。
文学好きのカップルなのに、なぜかデートでスケート場によく行く。ビールジョッキになぜか蓋がついている。2人が囲碁をしながら「細君教育」として物価について教えるシーンが好み。

若き原節子が、新鋭今井正の誠実な演出に応え、文学少女の子供っぽい婚約者から、夫となった新聞記者夏川大二郎の献身的な教育の成果と、未亡人で洋裁店経営姉日暮里子の適切な助言を経て家庭の妻の自覚が芽生え、出産を経験して立派な母となる迄の変貌過程が見事に描かれた、石川達三自伝的原作の家庭劇映画の佳作。