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永遠に僕のもののSのレビュー・感想・評価

永遠に僕のもの(2018年製作の映画)
4.3
どこのシーンを切り取っても綺麗なんだよなぁ、さすが「死の天使」

強烈な殺人鬼は実はぽっとり地球に落ちてきた天使で、殺人も窃盗も甚だ悪事だとは思っていない。あくまでそのピュアで純粋な好奇心のみによって突き動かされる。
その異様な人柄に人々はカルリートスをサイコパスだとみなす。しかし監督はサイコパスという言葉でカルリートスが縛られることを嫌う。それは映画冒頭でもカルリートス自信が言っているとおり「僕はこの世界に必要だから産み落とされた、天からの使者だ。」と、まるで人間という世界線からはひとつ違った視線からこの世界を見ているように見える。酷く欠落した悪の概念、男女という概念のない緩い性意識、着の身着のまま好奇心によって動くその様もまるで堕天使を思わせる。

窃盗だって軽々行う「他人のものなんてない」そう言ったカルリートスにとって初めて自由がきかなくて興味を奪われたもの、それがきっとラモンなのではないか。でもなんでカルリートスがそんなにラモンに執着するのかは未だに謎なんだけどね…

そんなラモンと様々な悪事を働いていくけど、まずまずカルリートスはラモンたちとは違って別に金儲けのために窃盗をしている訳じゃないし、あくまで盗みを働く時も人を殺す時もそれは「生きる」ことのひとつに過ぎないから、いまいちしっくりきていない?カルリートスにとっての窃盗は「これで金が設けられるか」じゃなくて「気になるかならないか、欲しいか欲しくないか」だもんな、だからわざわざラモンの死後再び赤い金庫に戻って中身を開けるんだもんな…

ラモンは今まで自分とタッグを組んで盗みをしていたのに、金持ちのオッサンの「お気に入り」になって、カルリートスを置いてテレビデビューまでする。とことん自分のものにならないラモンを偶然の事故を装い自分の手で殺したとき、それはカルリートスにとってラモンが「永遠に僕のもの」になった瞬間なではないか。でもテレビ出演後ラモンにあったときカルリートスは「すごく良かったよ」って言うんだけどな…でも事故を起こす前の運転中、カルリートスはラモンのことを酷く冷たい目で見るんだよな…あの時どんな気持ちでラモンの口に指を加えさせたんだろう…

殺したことで自分を魅了したラモンは永遠に自分のものにちゃんとなったんだろうか。ジュエリーをみてラモンから言われた「マリリン・モンローみたいだな」って言葉を思い出してるし、最後脱獄して窮地に陥った時に向かう先はラモンの旧家なんだもんな…不思議だな…

カルリートスは窃盗中焦るラモンに「焦るなよ」と声をかける。「何を言っているんだ。盗みをしているんだぞ?!」と驚くラモンに一言。「ちがう。生きているんだ。」「楽しまなきゃ」んーーこれには痺れた。なにも「悪」だと認識していない。カルリートスにとってはただ自由に生きているだけなんだよな。

あとこの映画は劇中の音楽も最高。入るタイミングも凄くいい。

なんてったって冒頭の音楽に合わせてのダンスは染みるよな〜。窃盗に入っているなんて、これっぽっちも気にしないで優雅にダンスをする姿はイカれてるのにすがすがしい!それにラストも冒頭と同じ音楽で、警察に周囲を完全に包囲されている中でダンスをする。

色のコントラストも最高。青の中の赤。この映画の中ではもしかしたら「赤」がキーワードなのでは。強盗に押し入った宝石店の1面は赤。カルリートスのタートルネックは赤。パンツも赤。そして無理やりこじ開けた金庫も「赤」。カルリートスは知らず知らずのうちにその赤に心を動かされているのかも。

なにかこの気持ちを言語としてアウトプットしたいのにも関わらず、言葉にならないこと気持ち。いろんなことを感じるのに、何も残らなくて、でもすごくモヤモヤしてる感じがして一方でスッキリしている。絆されるべきじゃない凶悪犯に何故か肩を寄せている。そんな強烈な後味を残す不思議な映画。

分かりたくても到底分かるような次元には生きていない。まずまず分かろうとすること自体人間としての倫理観に反しているのに、何故かその心理を読み取りたくなってしまう。監督の表現に圧倒!
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