メキシコ国境沿いのLAの街が舞台。悪徳警官と結託し、不法移民を攫ってきては臓器売買や売春強制で利益を得るタコス屋の主人と、その店に出入りする〝底辺に暮らす人々たち〟の群像ドラマ。
なかでも「モンストロ(怪物)」と呼ばれる覆面姿の男が印象的で、彼が物語のヒーローなのかと思いきや……さにあらず。
タコス屋に関連する人々もヤク中やアル中や盗人や人でなしなど、碌なものではないのだが、各々の思い入れと正義に則って衝動的な行動を重ね、隘路にハマってゆく。
たしかにタランティーノの『パルプ・フィクション』あたりを彷彿とさせる時系列のシャッフルや多視点的な叙述は魅力的だが、〝大傑作!〟と思わせるまでの決定的な要因には、欠ける。
とはいえ、不意に挿入されるゴア(人体破壊)シーンなど、見どころも少なくない(が、クレイグ・ザラーあたりの秀作と比べると、細部の詰めが甘い)。
何といっても、顔の真ん中に「鉤十字」のタトゥーを入れた(刑務所勤めを終えたばかりの)白人男性キャラが〝いちばんマトモ〟というのは、どういうことか?
英語とスペイン語が入り混ざったセリフ回しが、国境近くのロケーションの雰囲気をよく醸し出していた。全般的にコミカルとスリラーの、どちらつかずな演出が、惜しまれるところなのかもしれない。