MasaichiYaguchi

駅までの道をおしえてのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

駅までの道をおしえて(2019年製作の映画)
3.7
伊集院静さんの同名短編小説を新海誠監督の娘・新津ちせさんの初主演で映画化した本作は、掛け替えのない存在を失い、心にぽっかりと空いた穴を抱えた人々が寄り添い、深い悲しみを分かち合うことで前を向いていく姿を繊細に、詩情豊かに描いていく。
このところ日本は、大地震、大型台風、集中豪雨という自然災害で多くの尊い人命を失っている。
自然災害によるものでなくても、人は歳を重ねれば重ねる程、祖父母、両親、伯父伯母等の近親者を亡くしていく。
この作品では8歳の少女サヤカの視点で物語が展開していく。
サヤカは身体的特徴から学校で仲間外れにされていて、そんな少女が行き場のない犬ルーと出会ったところから物語が幕を開ける。
この一人と一匹は孤独な魂を寄せ合うように触れ合っていく。
犬を飼ったことがある人なら、描かれたサヤカとルーとの四季を通しての触れ合いに共感を覚え、そして突然訪れる愛犬との別れに筆舌に尽くしがたい悲しみで胸が潰れ、思わず嗚咽してしまうと思う。
本作ではサヤカと同様に深い喪失感を抱えた老人フセコウタローが登場し、この少女と交流していく。
この老人を笈田ヨシさんが演じているのだが、新津ちせさんと年齢差77歳というお爺さんと孫のような二人が、優しさと温もりに溢れた本作で演技のハーモニーを奏でていく。
後半に夫々が抱えた心の穴を埋める為の二人と一匹の旅が描かれるが、その透明感溢れる展開は心の深いところまですーっと入ってくる。
人は掛け替えのない存在の喪失が腑に落ちて、はじめて前を向けるのではないかと思う。
そういった意味で、本作は「さようなら」をする為のドラマと言えるかもしれない。