TaiRa

斬、のTaiRaのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
-
平成の初めに塚本晋也は『鉄男』を作って、そんで平成の終わりにも金属とリビドーの映画を作って、作家性ってやつかね。

自主制作の低予算時代劇らしい話の小ささは良いと思った。小さな農村で暴力の連鎖が加速して行く。やったやられたの単純な動機から死体が積み上がる感じが何とも嫌な雰囲気。農村で世話になっている若い浪人が老剣豪にスカウトされ、共に江戸を目指すことになるが……という話。百姓の娘である蒼井優と池松壮亮の動物的な求愛行動の様子は、彼らがまだ無垢な存在である事を表す。刀を抜けない池松にインポテンツを感じさせ、人を斬る事を性的な事象と結び付ける。ドリルになったペニスで女を犯し殺した『鉄男』もやはり性的欲求がテーマだった訳だが、今作もそれに通ずるものがある。刀が男性性の象徴なのはかなり分かりやすい。最終局面において父殺しの物語へ向かう流れは正統派なのだが、ここで塚本晋也と池松壮亮が斬り合う理由をもっと突き詰めて欲しいとも思った。人を斬った人間がそれ以前とは別の生き物になるというラストと蒼井優の慟哭の響きは嫌いではない。全編通して蒼井優を撮る時の気合の入り方が正直で良い。天に祈る蒼井優の美しさ。オープニングの熱した鉄を打つ場面が音楽的なのも塚本映画という感じ。映画全体の音響が音楽として構成されているので劇場で観るのがベストだとは思う。
TaiRa

TaiRa