TaiRa

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデンのTaiRaのレビュー・感想・評価

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泣きはしたが、非常に複雑な気持ちで観てた。

個人的には求めていた物語ではなかった印象。ファンの多くが求めていた物語がこれなのかもしれないし、作り手の優しさに起因する選択なのかもしれないが。TVシリーズにおいてヴァイオレットは空虚な器であり、出会った人々の物語を描く為の受け皿だった。遺された者たちの再生、死にゆく者たちが遺す想い、と多くの場合で喪失と再生、継承がモチーフになる。ヴァイオレットという心を持たない人形が生者と死者の橋渡し役を経て心を知って人間になって行く。ヴァイオレットにそれが出来るのは、彼女が最も想いを伝えたい相手が「死者」であり、それが叶わないから。他者の感情伝達に自身のそれを代用するからこそ、彼女は優れたドール足り得る。生者から生者はもちろん、死者から生者への想いの伝達(第10・11話)も可能だが、生者から死者へ想いを伝える事は出来ない。想いを伝えたい時、既にその相手がいない事、その不可能性こそ人が「死」を恐れ、嘆く所以だ。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はそれについての物語だと思っていた。死に対し人はどう生きれば良いのか。失ってからその人が最愛の人だと理解した人間は、どうやって生きていけるのか?という。今、語るべきはそこなのではないか。京都アニメーションだからこそ、それを描いて欲しかったというのはある。あの悲劇が作品内容に影響を与えたのかどうかは分からないし、そもそも影響を受けるべきかも分からないが。正直、ヴァイオレットには現世に留まって欲しかった気持ちがある。あの場所はある意味、彼岸でしょ。
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