むる

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデンのむるのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

美しい話だった

TVアニメシリーズを見ていた頃は、ヴァイオレットの気持ちしか分からず、ただヴァイオレットとギルベルトの関係を美しいと思っていたけど実際はそれだけじゃなかった
二人の関係はかなり歪んでた

確かにヴァイオレットはギルベルトに生きる意味を与えられたし、ギルベルトはヴァイオレットを愛していた
けど、幼い子どもを戦場に駆り出して戦わせたこと、殺人の技術や兵器の扱い方を教えたこと、数えきれないほど人を殺させたこと、(直接的にギルベルトに原因はないとは言え)両腕を失わせたこと、自分の命令なしではまともに生きられない人格にしたことなど、ギルベルトには数えきれないほどヴァイオレットに対する罪があった
ヴァイオレットに対してのみではなく、島の戦争に出た青年を還ってこられなくしたのは間違いなくギルベルトだった
そして、無数の火傷を負って燃えていたヴァイオレットに関しては言わずもがな

アニメシリーズでたくさん頑張って頑張って、やっと人の気持ちが少しわかるようになったヴァイオレットをずっと見てきたから、彼女がどれだけの人を傷つけてそしてどれだけの人の心を結んだか見てきたから、ヴァイオレットを拒絶するギルベルトにすごく苛ついたし、彼を大馬鹿やろうと怒鳴ってくれたホッジンズに感謝もした

けど、彼女に対しても、殺してきた多くの人に対しても、ずっと罪の意識に苛まれてきたギルベルトが、自分の命令なしに彼女が自動手記人形として立派に人々の役に立っていると知った時「自分はそばにいない方がいい」と思うのは当然だろうし、終戦後辿り着いた先が、自分が殺した人々が二度と還れない島だったら、そこで罪を償わなければと思うのも当然だと思う

ヴァイオレットが生きていると知った瞬間真っ先に迎えに行けるような人間じゃないから、ギルベルトはヴァイオレットに対して心を痛めるのだと思った
ギルベルトがヴァイオレットに対してしたこと、戦いの中で沢山の人を殺したこと、これらを「戦争だったんだから仕方ない」なんて言える人間であったなら、ギルベルトはヴァイオレットのことをあんなに強く想ったりしないと感じた

ただ、願って祈って、ようやくたどり着いたギルベルトに拒絶されるヴァイオレットを見ているのはあまりに辛かった
ホッジンズが居てくれて本当に良かった
ただ、敬愛する人に拒絶されるという地獄の底にいても指切りの約束を守ろうとする姿はあまりに美しかったし、彼女が結ぼうとする絆があまりに尊くて、泣いた
ここまでずっと、手紙は素直な気持ちを伝えられる素晴らしいものだと描かれてきたけど、ここで電話もまた同じなのだと時代の移り変わりを描いてくれたのもすごく良かった

そして、最終的にヴァイオレットがただ感謝を伝えられたのも、ギルベルトがヴァイオレットの名前を叫べたのも、手紙がきっかけだったのもすごく素敵だった
ギルベルトに伝えたい思いについて、ヴァイオレットはいつも綴ることが出来ずにいたけれど、やっぱりそこに在ったのはただ彼に対する「ありがとう」ばかりで、とても綺麗だと思った
ギルベルトの叫びに迷わず海に飛び込み戻るのも、子どものように何度も少佐と言いながら泣く姿も、「私は少佐を」と何度も自分の気持ちを伝えようとする姿も、本当に美しかった

二人の関係は美しいばかりでなくとても歪んでいて、血と罪に塗れているけど、けどそれでもやっぱり愛に満ちてると思った
その愛が美しかった

エピローグのヴァイオレットはきちんと自分の仕事をやり遂げてから島で働き出したというのもヴァイオレットらしくて本当にいいなと思った
ヴァイオレットの切手わたしも欲しい

今更ながら、お話のきっかけがアンに向けたお母さんの50通の手紙だったのもあのエピソードがすっごく好きな自分としてはとても嬉しかった

アニメシリーズから番外編劇場版、今回の劇場版とずっと見てきたけど、ずっと絵も音楽も演出も声もぜんぶ素晴らしかった
素敵な作品に出会えて良かった
むる

むる