まぬままおま

アルキメデスの大戦のまぬままおまのレビュー・感想・評価

アルキメデスの大戦(2019年製作の映画)
3.5
祝・山崎貴監督。
アカデミー賞は「田舎者の年中行事」であり祭りなんだから、カンヌの方が大事とか言わずに純粋に祝いたい。

ということで、本作。『ゴジラ-1.0』で浜辺美波がキャスティングされたのは、本作で彼女の数式的な美しさが発見されたからであり、本作がなければ『ゴジラ-1.0』でアカデミー賞での受賞はなかったといっていいだろう。すいません、言い過ぎました。そんなわけはないです。だが浜辺美波は綺麗。

『ゴジラ-1.0』の関連で言えば、山崎監督の戦争観がとても気になる。『ゴジラ-1.0』では特攻兵・敷島の突撃する意志自体は否定していないし、「民」によるナショナリズムの語りへと回収しているように思える。そもそも極右政党を立ち上げた作家の小説を翻案しているのだから左派ではないだろう。そして本作もまた戦艦大和にまつわる海軍の「戦い」を描いたのだから右派的な大衆迎合作品と言っていいだろう。

しかし本作は、ファーストシーンで戦艦大和の沈没を描き、そこに至るまでを語っているため、大日本帝国の屈強さを描いたものではない。さらに海軍の「戦い」は賄賂や誹謗中傷を含んだくだらないものだし、どちらが勝手も海軍には利がある「戯れ」として描かれている。ここに素朴な国家称揚の態度はない。その中で、大和沈没の「負け」を主人公の天才数学者・櫂直による「技術」側から批判的に描くのが本作なのである。

とても屈折しているように思える。山崎監督の態度も主人公たちの態度も。
戦艦大和によって大日本帝国の屈強さを象徴しつつ、その象徴が沈没し「負ける」ことも見越している。彼らの信念はどこにあるの?なぜ負けることまで想定しているのに、熱心に戦艦の設計図を作成したり、策略を謀り予算を過小見積もりしたりするのかと。
そのような様子をみると冷笑主義であり、素朴に技術の美を追究する態度と思ってしまう。そしてその果てにあるのは…?

VFX、テクノクラート…生き延びる手立てであり、技術は抜群で世界的に評価されるのは分かる。けれど何だかなー

と複雑な心境になるのも、タイトルの出し方やカットがダサくて俳優の演技力で物語が保たれていると感じてしまうからだ。

だから論戦を避けるため、本作は『ゴジラ-1.0』に至るまでの重要な過去作であり、菅田将暉と浜辺美波の演技がよかった!とだけ言いたい。そんな政治性を避けたかにみえる政治的な態度が現状を追従しているのだけれど、それでいいのだ(よくない)。