叡福寺清子

15年後のラブソングの叡福寺清子のレビュー・感想・評価

15年後のラブソング(2018年製作の映画)
3.1
粗筋を読んだ上で出演がローズ・バーンと知った時,あぁだいたいそういう感じよねと理解した三遊亭呼延灼です.こんばんわ.そして残念ながらそういう感じの作品でございました.

とはいえ,くたびれた中年女性というはまり役のローズ・バーンは観ていて安心でございました.パブでの無理やりのダンスシーンには,ちょっと変な声がでてしまい,隣で資料読んでるかれんさんに蹴られてしまった三遊亭呼延灼とは私の事です.気持ちよかったです.「スイングステート」のバリバリキャリアウーマンも良いのですが,やはりローズは田舎のくたびれた中年女性が似合います.それだけでご飯2杯はいけます.

そして,もう一点本作で注視すべきなのはファン・・・というよりマニアとクリエイター本人の関係性です.
ローズの外の人,アニー・プラットと長く恋人関係にあるダンカンさんは,オルタナ・ロックスターで25年前演奏の途中で忽然と姿を消した伝説のタッカー・クロウの信奉者で,SNSにてフォーラムを開設し布教活動にも精を出してます.
なんやかんやあって(そこは今重要ではございません)アニーさんの仲介でタッカーさんとディナーを共にするダンカンさんはここぞとばかりにアルバムの事を熱く語りますが,音楽への情熱を失っていたタッカーさんには煩わしいだけ.しかもダンカンさんはタッカーさんを神格化しヲタク仕草でまくし立てるもんですから,タッカーさんはイライラが募ります.反対に,ダンカンさんにとっては聖典ともいうべきアルバムをタッカーさん本人が否定するのですから,いたたまれません気持ちになったダンカンさんは退席してしまいます.『貴方がアルバムを否定しても,私にとっては人生で一番かけがえのないものなんだ』との捨て台詞を残して.
人生を捧げるほどに愛着あるアルバムを称える気持ち,そしてそれを生みだした本人に吐露したいという想いも痛いほどわかりますし,そのアルバムはクソみたいな出来と思うアーティストの気持ちも理解できます.アレですよね,玉城ティナ嬢とお会いした際に靴をペロペロしたいけど,本人は泣くほどに引くだろうってそういう事ですよね.エッ違います?
この事はなにも音楽に限ったことじゃありません.映画や小説,漫画にゲーム.あらゆる創造物とそのファンでも同じ事が言えましょう.それはしょうがないことであり,であればせめてクリエイターさん達はファンの前では否定しないようにお願いしたいもんでございます.むしろ人に多大な影響をもたらした『モノ』を自分は生み出したのだと誇っていただきたい.一方,ファンはファンで無闇に神格化しない,たとえ本人に対してであっても自身の価値観を押し付けない,距離感保つ,を遵守いただきたいと存じます.現場からは以上でっす.