Machiko

岬の兄妹のMachikoのレビュー・感想・評価

岬の兄妹(2018年製作の映画)
5.0
よかった。すごくよかった。こういう映画、大好きだ。

前評判で、観るのに覚悟の要る映画だということは知っていた。胸糞が悪いとか、大嫌いとか、二度と見ないというレビューもいくつも目にした。だから私もそれ相応の覚悟を持って鑑賞にのぞんだ。

しかしいざ観てみるとどうだろう。確かに題材やストーリーは、この世の悲壮を鬱で煮しめて特大級のしんどさを振りかけたような有様だが、良夫の、人生に疲弊しながらも生に執着する姿、最早何処へ向かえばいいか分からぬまま醜さをさらけ出し生にしがみつく表情に、強く惹かれている自分がいたのだ。

そう、この兄妹は、徹頭徹尾、あくまで「生」に固執する。社会保障はどうなってるのかとか、友人も警察官ならちゃんと福祉にパイプ繋いだれやとか、突っ込みどこは多々あるが、良夫はあの劣悪な境遇にあって、しかし自死や心中などが頭をよぎったりしたことは1度だってない。いつも貪欲に生きていた。

それだけではない。生き続けることに対し一歩も引かない姿勢がそれをもたらしたのかは分からないが、売春を繰り返した真理子には、ついに子供までできてしまうのである。底辺の生活のなかで蠢いているうちに生まれた、あたらしい「生」だ。

あのラストには正直、制作側の逃げも感じたが、個人的解釈を。幾度と述べた通り兄妹はずっと、生きること、人生を続けてゆくことのみを見つめて生きてきた。そんな彼らが、その新しい命を殺してしまう。はじめての生への反逆。私にはあの電話のコール音が、死神の足音に聞こえてならない。

まとめ。確かにこの映画は重い。鬱だ。間違っても他人に薦められる作品ではない。だが下手な大作映画などよりよっぽどずっと、生きることに関する原始的なエネルギーが漲っている。人生に疲れた時にこそ観たい、いや観るべき映画だと思う。めちゃくちゃ好きなやつでした。大満足!
Machiko

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