このレビューはネタバレを含みます
戦時中の日常を素朴に映す中に垣間見える戦時中ゆえの人々の異常さや、揺れ動く感情が厭らしさ無く自然に描かれている。
耐え難い苦しみが絶え間なく襲ってくるけれど、それでも生きている者には明日が来て、当たり前の日常がやってきて、今ある大きな苦しみとその先にある小さな幸福を受け止めて前に進まなけばいけない。胸が締め付けられる。
淡い色使いと、繊細なタッチで生き生きと描かかれるキャラクターはとても愛らしく見えるが、同時にその中で描かれる美しい風景やリアリティある描写は生々しく、時おり目を瞑りたくなる。
シーン転換の速さは良い意味で劇的ではない。邦アニメにおいて、ここまで劇的ではない物も少ないかもしれない。恋も、キスも、嫉妬も、爆撃も、災害も、体の欠損も、親や兄弟や姪の死も、原爆すらも、すずにとっては人生の一部分でしかないのだ。
上映中はすずの人生を受け止めるのに必死で自身の感情を表に出す暇など無かったが、虚しさや苦しさがエンドロール後に襲ってきて涙が止まらなくなった。