TaiRa

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのTaiRaのレビュー・感想・評価

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これを観るとオリジナル劇場版って不思議な作りだなって。改めて。長ければ長いほど良いタイプの映画。

原作にあった、主にリンさんのエピソードを追加した増補版。で、もはや新しい映画。あぁ、すずさんってこんな人なんだ、とより分かるような。そりゃそうだよなってくらいに大人の女であるし、心情はより複雑なものとして捉えることが出来る。夫・周作への感情もオリジナル版から受けたものとは必然的に印象が異なる。すずにとって周作は最も近い他人なのだな。すずとリンが裏表なのは、彼女たちの名前が「鈴」の別読みという点で示される。裏表というよりほとんど同じなのか。すずもリンのようになったかもしれないし、リンはすずの居場所にいるはずだったかもしれない。そして二人が「女の義務」について話し合う場面は象徴的。片や子供を産むために、片や遊女として、当人の意志とは関係なく、彼女たちは生かされている。ここに踏み込むからこそ、セックスも描くし、その上で「拒否」も描く。流されて生きているように見えるすずの明確な意志が映る。彼女の自立性も。「(さらにいくつもの)」とは奪われたものの多さを表しているという。段階を踏んで大切なものが奪われる。その周りには更に多くの奪われた人々がいる、という真実が今作では追加される。作劇上は脇役とされる人々にも確かな人生があると感じさせるし、それを描く上でのディティールはやはり凄いと思う。この映画は多分、4時間あっても短いと思えるだろうな。
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