ミノリ

サンセットのミノリのレビュー・感想・評価

サンセット(2018年製作の映画)
4.1
ウパニシャッドという古代インドの哲学書には、こんな言葉が残されているーー「無知に耽溺するものは/あやめもわかぬ闇をゆく/明知に自足するものは、しかし/いっそうふかき闇をゆく」

いまの時代、とはいえかれこれ十数年間、第一次大戦前や大戦間期の再来のように語られて久しいように思う。爛熟した資本主義、文化的な倒錯、ナショナリズムや差別主義的な思考の台頭……云々。

しかし、似ている点があるからといって私たちは、「まさか」再び戦争が起こるなどと考えないし、明晰であれば「非合理」な考えだと、捨象すると思う。私もそう思う。しかし、そんな事態が、「そもそも非合理」なものから生まれたとしたら、どうだろうか。

本作は、第一次世界大戦前夜のハンガリー・ブタペストが舞台だ。舞台からしてそうであるが、ラストシーンまで追えば、物語が第一次世界大戦に繋がっていることは明らかだろう。とはいえ、それは史実としての繋がりではなく、気分としての繋がりであり、象徴的な繋がりなのだ。

その象徴的な繋がりを、私たちは主人公イリスの目を通じて、見る。闇のなかをゆくように、さまよいながらも、”帽子”に隠された世界を見る。その世界は、彼女の不可解な(”無知”的な)行為を通じて、あきらかにさせられる。イリスとは、ギリシャ神話において、ゼウスとヘラの意志を、地上の人間に伝える女神の名前だという(またirisはアイリス、”あやめ”の英名でもある)。

雨のなかの塹壕に並ぶ兵士たちは、私たちの目から見れば、大戦に赴いた人々という歴史的存在だ。けれども、それは、いつか先の私たちの姿になるかもしれない、と、この映画は問いかけているように思えてならない。
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