まつけん

ある画家の数奇な運命のまつけんのレビュー・感想・評価

ある画家の数奇な運命(2018年製作の映画)
3.8
「ある画家の数奇な運命」-2020年 イタリア/ドイツ 「原題:Werk ohne Autor/Never Look Away」
※日本語タイトルの所為で大分チープ化されている。英題のNever Look Awayよりも原題のWerk ohne Autor ≒作者の無い作品が分かりやすいかな。

ドイツの芸術家ゲルハルト・リヒターの半生をモデルとした映画。(リヒターはクルトという名に代わり、また登場人物や出来事をフィクション/ノンフィクションを織り交ぜることで分からなくなっています)
久々の3時間越え映画でしたが、お尻が痛くなる以外はのめり込んで観れた!芸術系の映画ってともすれば抽象的、はたまた哲学的で、個人的にはよくわからなくなりがちなんだけど、この映画は観てれば何となく主人公の葛藤や作品の意味がわかる。
アート映画というよりは、クルトの生い立ちや家族事情、そして何よりナチスドイツからの社会主義東ドイツ、そして西ドイツという生活環境/情勢を丁寧に描いてくれるので理解しやすいヒューマン映画でした。
そして、少しサスペンス的な要素も映画として加えられていて、退屈することなく観ることが出来ます。

映画では、クルトがドレスデンに生まれ、ナチス、そして東ドイツで揺れ動き、西ドイツで自分の作風を見つけるまでが描かれている。
芸術を教えてくれた叔母がナチスのT4作戦によってガス室に送られ、父が自殺し、自分が描きたい絵を描くことが許されず、その葛藤に苦しみ、もがき、西ドイツに逃げてデュッセルドルフに辿り着き、自分を見つめ直す。
ネガティブな点としては夜の営みのシーンが、不必要なほど多いです。あと時々映像のCGなのかがチープに感じる時があります。

ナチス時代の芸術はピカソやカンディンスキーなどの抽象画が退廃芸術と否定、兵隊を鼓舞するような作品が求められ、そして社会主義の東ドイツの美術では労働者を持ち上げる必要や戦後の世の中をポジティブにすることが求められ、一方西ドイツでは、絵画は廃れつつも、1960年代のデュッセルドルフでは、様々な先進的アートが誕生していた。この流れや対比が非常に分かりやすく描かれる。

◆知らなかったこと
①ガス室送りはユダヤ人だけじゃない。
 ナチスは精神疾患は遺伝すると考えており、安楽死プログラム(通称T-4作戦)と呼ばれ、身体障害者・精神障害者はドイツ人医師の診察・カルテの元、公式で7.5万、中止後の非公式含めると20万人もの人をガス室に送っていた。
 (1941年に中止の嘆願を聞き入れ、ナチスとしては公式には中止したにもかかわらず、各精神病院等で秘密裏に行われていたという)
②ドイツのゲルハルト・リヒターという芸術家。
 失礼ながら存じ上げなかったですが、一時は存命する芸術家で最も高額な作品にもなった、ドイツが誇る世界的画家。瀬戸内海の豊島にパーマネントスペースを持つ。作風は幅広く、
----美術手帖より---
 精密に模写した写真のイメージを微妙にぼかす「フォト・ペインティング」や、カラーチップを配列した幾何学的な絵画「カラーチャート」、グレイのみで展開する「グレイ・ペインティング」、17世紀以降のドイツ・ロマン派を想起させるような風景画、また、鮮烈な色を組み合わせる「アブストラクト・ペインティング」や、スナップ写真の上に油彩やエナメルで描く「オーバー・ペインテッド・フォト」など、60年代から現在に至るまで多彩なシリーズを展開。
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