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ROMA/ローマのsatoshiのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.8
 皆様。いかがお過ごしでしょうか。私はこの感想を書いているように、紅白には目もくれず、シコシコと書いているわけです。何か空しくなってきた。映画観て年でも越すか、どうするか。あ、感想ですね。下からです。皆様、良いお年を。


 NETFLIXで配信された、メキシコのある家族を淡々と描いた映画。監督はアルフォンソ・キュアロン。キュアロン監督作で観ているのは『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』と『ゼロ・グラビティ』のみ。どちらも好きですが、監督の名前ではそこまで観ない方です。では何故観たのかといえば、絶賛評ばかり聞くから。周りも「良い」って言ってるし、12月は観る映画も少ないし、それなら観るかと思ったので鑑賞した次第です。

 映画が始まってすぐ、画面いっぱいに映されるタイル張りのような何か。最初は何か分からず、音だけ聞こえている。そこへ水が流れてくる。その流れが止まり、水溜りになった時、反射で空と飛行機が映され、これが床だということが分かる・・・。ここで完全にノックアウトされました。以後、驚くような美しい映像が続き、2時間15分の間、至福の時間を過ごすことができました。

 本作には具体的なストーリーはありません。ただ、引いたショットからひたすら日常を映します。それらの全てが美しい。また、それらは1シーン1カットの長回しで撮られていて、家族の行動を途切れず終えるため、本当にその家族の日常を追っている気持ちになります。そしてその中にも、台詞は最小限に止められていますが、映像はとても饒舌。夫婦の車の停め方の違いや、何気ない台詞からあの家族の仲の良さ、夫婦の倦怠感、そしてあの家政婦さんがどれほど慕われているのかが分かります。他にも、「女性と男性の違い」を行進する男たちと、それに従わず、脇に入ってしっかりと未来を見据える女性といった対比で見せていたり、旅行に行ったときの周囲の観光客と家族の配置で家族の孤独感や結束を静かに見せます。この映像の豊饒さは、同じ年に公開された『リズと青い鳥』を彷彿とさせます。叶うならば、本当に劇場で観たい作品です。

 また、それ以外にも、事件が起こったときの、「違和感が日常に侵食してくる感じ」も素晴らしかったです。具体的には中盤の暴動ですね。日常を過ごしていたかと思ったら、外の異変に気付き、それが自分にも迫ってくるというあの流れは最高でした。

 本作に出てくる男はクズばかりです。主人公の恋人は彼女が妊娠したと知るや逃げ、追いかけてきた彼女に逆ギレしますし、主人公が仕える家の旦那も浮気をして逃亡し、その他の男も無軌道な道を進みます。

 対して、女性はとても理知的。男が無軌道に進んでいるのに乗らず、自分たちの家を護っていくことを誓います。また、主人公にしても、家族を得られなかった彼女が生命の源である海から子どもを救助して「家族」となることで、救いを得ます。そこに男は存在しません。男の手を借りずとも、女性が自らの手で家族を作り、未来を開いていく。現代的な確かなメッセージです。映像は古典的な感じがしますが、メッセージはとても現代的だと思います。素晴らしい。
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