ぴのした

ROMA/ローマのぴのしたのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
3.8
面白いかと聞かれたら面白くはないけど、確実に「良い映画」。邦画のようなゆったりとした雰囲気に、かっちりしたテーマ。カンヌ受けしそう。

1970年代、政治的に不安定なメキシコを舞台に、家政婦のクレオと雇い主の一家を描いた物語。

話のテンポが遅くて前半はかなり退屈。後半も驚くべき怒涛の伏線回収!とはいかないが、ちょっとずつテーマが分かってきてそれなりにジーンと来る場面はある。

真面目な話をすると、この映画は男に対してかなり敵対的だなあと思う。

日陰者の物語というか、この映画に出てくるのはみんなこの時代の社会的弱者ばかり。

貧しい村の出の家政婦たちや、夫に捨てられた妻。何も知らない子供達。

政治的な不安やメキシコの歴史を語るにしても、徹底して女性や弱者の目線で語りかけてくる。デモのシーンなんかもそうだろう。

一方で男の描かれ方はどうか。

夫の初登場のシーンを見てみると、夫がゴツくてデカくてカッコつけた車を慎重に運転するシーンにくどいほど尺が取られている。

車庫に合わない車の大きさの不釣り合いさが強調され、なおかつ夫の顔は不自然なほど画面に映らない。

車内には威圧的とも取れるほどのクラシックが大音量でかかり、タバコ臭い口で子供にキスをする。

もう1人象徴的な「男性性」を背負っているのがフェルミンだ。

クレオにロマンチックな言葉をかける優男かと思いきや、武道の心なんか上っ面だけで、崇拝しているのは武道の中にある純粋な暴力性だけ。

彼の捨て台詞こそ、その最たるものなんだけど、ここに書くのもはばかられるので割愛する。

歴史に光と陰、表と裏があるとすれば、これは間違いなく後者の物語。だからこそ陽の当たらない人たちの物語という意味で、色のない白黒映画にしたのだろうか。

とはいえ、それにしては海辺のシーンなど、光の加減で白黒映画とは思えないほど色鮮やかに感じる場面が多い。そして全編通して彼らの生活はどこか美しい。

陽の当たらない彼らの生活は、ただ灰色の毎日だったのか?と聞かれたら、誰もが「そうじゃない」と言いたくなるのではないか。