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ROMA/ローマのNightCinemaのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
4.8
最初はウトヤ島を観る予定だったのだけど仕事で間に合わず、でも今日は絶対に何か観たい…と色々探していたら、超気になっていた『ROMA』がなんとシネスイッチで上映中-!?

もうこれしかない、ということで即決したのが大正解でした。

落ち込んでいる誰かの前で、普段と変わらず過ごす家族がいる。あるいは、ついさっき家族の喪失を知った誰かの横で、新しい家族の始まりを祝うカップルがいるというように、「絶望の隣に常に存在する少しの希望」というものが、描かれている映画だと思います。

オープニングでは、時代と生きることの儚さを表すように切り取られた空と、無機質に通り抜ける飛行機、そしてそれらを洗い流す柔らかな泡が映し出されます。

この映画で水や泡、海というのは、胎内であったり、弱い者を諭し守る存在として、男性との対比で描かれているような印象もあります。

1971年6月のメキシコでの『血の木曜日事件』という政治的混乱と、そこでクレオに起きる出来事が、観ている側に生々しく迫ります。

当時のメキシコには、新興国としての日本(や韓国?)との関係を深める動きがあり、作中でも武道に明け暮れる青年達の姿が見られます。

自分の隣にいる女性一人すら満足に守れずに、ただ己の肉体を磨くことだけに邁進する男の姿は本末転倒でとても滑稽で、時代の混沌と矛盾というものを感じさせる。

本来は力強さの象徴である男達の無責任さが描かれることで、その影にある女達の内に秘めたしなやかさというものがよりクローズアップされています。

この映画の魅力は、女や子供という力の弱い者達が、絶望の中で肩を寄せ合い、自分達の外側ではなく内側に希望を見出していく所にあると思う。

海辺で子供と女達が抱き合っているこの映画のカバーがとても好きだったのですが、観終わるとそれがとても重要で美しいシーンであることに気づきます。

クレオが失ったものと、救ったもの。そして海辺でのクレオの言葉というのが印象的で、人間や愛について考えるひとときをくれるシーンでした。

一つひとつのシーンが長回しなので観ている側が実際にそこにいるような感覚を持ちやすく、命や愛情といったテーマをこうした日常生活のシーンだけで伝えるというのはかなりの技術が必要なのだろうと思いました。
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