カポERROR

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語のカポERRORのレビュー・感想・評価

4.3
私が彼女をを初めて見たのは、2008年公開の『つぐない』だった。
ブライオニーという穢れのない少女を演じた若干13歳の彼女は、作中、物語を激震させる大きな嘘をつく。
無垢であるが故に。

2014年公開の『グランド・ブダペスト・ホテル』で彼女が演じたアガサは、右頬に三日月型のアザを持つ住み込みの菓子職人だった。
彼女は、拘置所に囚われた主人公グスタヴの脱獄に協力するため、差し入れの菓子にハンマーを仕込んで騒動の引き金を引く。
純粋であるが故に。

2015年公開の『ブルックリン』で彼女は、南東アイルランドの田舎町からニューヨークに移り住んだエイリシュ役を演じた。
慣れない新天地で運命的に出会い、心の支えとなったトニーへの愛。
その後、姉の訃報で帰郷した際に、期せずして再会した旧友ジムに惹かれる想い。
二つの熱情が彼女の心を引き裂き、予期せぬ誹謗中傷を受けた末に、苦渋の決断をする。
ひたむきであるが故に。

2017年公開の『レディ・バード』で、彼女はカリフォルニア サクラメントで間もなく卒業を迎える多感な高校生レディ・バードを演じた。
母との確執。
二度の恋の挫折。
親友との心の隔たり。
幾つもの荒波を乗り越え、母に頑なに反対されたニューヨークの大学へと旅立つ。
奔放であるが故に。

そして…2019年。
本作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で、主人公四姉妹の次女ジョー役を熱演した彼女。
知性豊かで、愛情深く、それでいて硬骨で、恋に不器用なジョー。
ジョーは、彼女がこれまで演じてきたどのキャラクターよりも、彼女を活き活きと輝やかせた。
そんな情熱家のジョーも、かつて思いを寄せた青年ローリーとのすれ違いや、最愛の末妹ベスの死で、深い悲しみに暮れる。
彼女は母にこう叫んだ。
「女には、心だけじゃなくて、知性も魂もある…美しさだけじゃなくて、野心も才能もある…世間の人が言うように、結婚だけが女の幸せなんて絶対に思わない…なのに…たまらなく寂しいの」
ジョーの心のコアを見事に表現したこの台詞は、間違いなく映画史に残る最高の言の葉だった。
そんな悲しみの水面を揺蕩うジョーに、思いがけない来訪者が現れる。
ジョーがニューヨークで想いを寄せながら自尊心から自ら突き放してしまったフレデリックが、彼女に会うため故郷を訪ねてきたのだった。
運命的な再会を経て、彼女も大いなる一歩を踏み出す。
自らに誠実であるが故に。



そう、彼女の名は『シアーシャ・ローナン』。
〖シアーシャ〗は、アイルランド・ゲール語で〖自由〗を意味する。
両親は1980年代に深刻化した北アイルランド紛争でアメリカに避難したが、不法移民としての生活は貧しく、辛く厳しい暮らしを余儀なくされた。
そんな両親の想いが込められたこの名〖シアーシャ〗は、奇しくも、彼女が歩む女優としてのキャリアの道標となったように思えてならない。
自我・環境・しがらみ・血筋…様々な殻に囚われた自身を解き放って“一歩踏み出す”…彼女はそんな役柄へのアプローチを信条に、ここまでの地位を築き上げてきたのだから。
そして、彼女が作中で踏み出すその一歩は、必ず”物語を蠕動”させるのだ。
彼女は自身に課した宿命かのように、そうした作中での“重要な一歩”を踏み出すキーパーソンを選んで演じる。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』に至っては、本作制作の計画を聞いた彼女自身が監督の元を訪ね「私がジョーを演じますから」と“お願い”ではなく“報告”したと言われている。
この気の強さ…これほどジョーに相応しい女優はいなかろう。
逆にスルーした大役も数しれず。
『アベンジャーズ』のスカーレット・ウィッチや、『ホビット』のエルフetc...全てオファーを断っているらしい。
シアーシャ・ローナンのワンダだって?
勘弁してくれ。
一歩踏み出したら、作品を滅ぼしかねない。
彼女の賢明な判断に拍手を送りたい。

私がそんな彼女の魅力にとりつかれて、早10年以上。
〖シアーシャ〗はこれからも〖自由〗を演じ続けるだろう。
彼女のその青い瞳が、自由を求めて輝く様を、私はこれからもずっとずっと観ていたい。
心から応援している。

そんな彼女の魅力が詰まった『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。
未見の方は是非御鑑賞あれ。
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