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ディリリとパリの時間旅行のchiakihayashiのネタバレレビュー・内容・結末

ディリリとパリの時間旅行(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 フランスの鬼才がベル・エポックのパリを舞台に創り上げた絢爛たるアニメーション。ヒロインは、フランスの植民地ニューカレドニアから密かに船に乗ってやってきた賢い少女ディリリ。「人間動物園」(!)で原住民の少女を演じているけれど、密航中に助けられた伯爵夫人のお屋敷で暮らし、しかも故郷ではパリ・コミューンの指導者で流刑者としてやってきたアナーキストのルイーズ・ミシェル(実在の人物!)から教育を受けていたのできれいなフランス語をしゃべる。彼女が、少女たちを誘拐しては奴隷に仕立て上げていた「男性支配団」(!)を名乗る悪党一味に立ち向かう物語。

 ディリリの相棒は配達人でパリの街を知り尽くしている気のいい青年オレル。そこにやはり実在したオペラ歌手エマ・カルヴェ、師のルイーズ・ミシェル、加えてマリー・キュリーと当代の最高の知性と勇気を備えた女性たちが知恵を絞り、力を貸すのだ。他にチョイ役で登場する女性陣は、私の知る限り、ベルト・モリゾ、メアリー・カサット、カミーユ・クローデル、イサドラ・ダンカン、ガートルード・スタインにアリス・B・トクラス、コレット、サラ・ベルナールetc. 

 なんとも華麗で優雅なフェミニスト・アニメ!

 連想させられたのは、日本のアニメーションの鬼才・高畑勲の14年ぶりの作品にして遺作が、やはりフェミニスト・アニメと言うべき『かぐや姫の物語』(13年)だったこと。時代設定からすれば仕方のないこととはいえ、父親という男から最終的には御門という別の男へと手渡されるしかない運命に対して、かぐや姫が懸命に虚しい抵抗をする物語だった。そして姫の唯一の慰めが、山や野や草花や木々に虫といった自然だったことも、このディリリの冒険譚とは対照的だ。
 ちなみに高畑勲は、ミッシェル・オスロ監督の1998年の初長編『キリクと魔女』に惚れ込んで日本語版の制作を担当している。

 タッチも色彩といった手法は全く対照的だけれど、ともにアニメーションの芸術性を追求した作品。ともに聡明で意志的な少女をヒロインに据えながら、彼我のストーリーの違いに粛然とする。
 いや、どちらも鑑賞できる今のアニメ・ファンの子どもたちの幸運を喜ぶべきか。
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