露木薫

マイ・ブックショップの露木薫のレビュー・感想・評価

マイ・ブックショップ(2017年製作の映画)
4.0
演技が素晴らしい。
美術や風景にも目が行く。
物語を彩る静謐で洒脱な小室内音楽にも心整えられる。

以下に、個人的な感想文を記す。

本は、それを読むことによって己の無知を知る謙虚さと、活字という限られた情報から想像する知的忍耐力を、読む人にもたらすのではないか、と近頃よく考える。
これは、感染症対策で映画館に通うことができなくなったために、読書や散歩を継続し始めて考えるようになったことだ。
それまでは、ひっきりなしにSNSで流れてくる映画館の宣伝情報に疲れを覚えていた。映画上映は有難いことだが、名画座以外では短期間に大量の作品を詰め込んで番組が作られているため、それらの中から自分に何が必要なのか、疲れが溜まって行くとわからなくなっていた。
その他にも、簡便な動画やSNSの短文、安価なハウトゥー本などに埋もれて見失っていたが、大切なことは既に己の心の中にも存在していたのだろう。
自分にはそうした誘惑から心身を守る教養と知的体力が不足しているのだと、痛感したのである。
周囲を満たす情報は玉石混淆であるから、意識して善きものや自分に必要なものを考えて選択せねばいけない。
このようなことに気付き考え行動を変革する日々の中で、この映画を観てみようと思い立ったのである。

店を開き品物を売ること。
人を雇うこと。
町の人々の読む本を選ぶ責任。
教養を磨き感情を制御して人を思い遣り己の信念を貫くこと。
このようなことの大切さを、この映画を通して感じた。
愚直に誠実に己の仕事と向き合う主人公の姿に学びたいと思った。
また、それぞれの人物の背景にも想いを馳せられ、主人公の夢を邪魔しようとする人々も単純な悪人ではないことを感じ取った。

この映画を観て学んだことをまとめとして最後に記す。
自分の知的脆弱性を自覚すること。
映画も本もよく選んで味わうこと。
宣伝やSNSに無自覚に流されないこと。
高校までの教科を再学習し、古典文学や学術書を読み、身の回りの自然や社会に関心を持ち謙虚な姿勢で見つめ、人と落ち着いて文章や会話を通じて言葉のやり取りをすることで、もう一度謙虚さと知的忍耐力を身につけて行きたいと思う。
露木薫

露木薫