ある少女失踪事件に端を発する物語。町営団地で暮らす孤独な青年と、心に傷を抱えた少女が心を通わせる様子と、ほんの些細なしくじりで村八分になっていく初老の男性の顛末を追いながら、切羽詰まった人間が凶行に及ぶまでを描いている。どうして非道な行動に出るのか、そこに至るまでに何があったのか、誰がそほどまでに追い込んだのかと、物事の道理と筋道を辿っていく律儀なサスペンス。大人の映画だったなあ。
日本の田舎。醜くて、粗野で、閉鎖的。だからこそ、村社会の遺伝子を持った僕らにとって、抜け出すなどという選択肢など思い至らぬほど居心地がいい故郷となってしまう。そこが誰かにとっての地獄だったとしても。
紡がタケシに向ける感情は、初恋に近いものだったのではないかと思う。流れる田園風景の撮影と、印象的なＹ字路。大好きなあの人の心のなかにいるのは、もう絶対に手の届かないところにいる誰か。自分のなかの記憶を愛してしまう、かつて自ら遠ざけたのに今になって影をおってしまう、過去をみながら後ろ歩きしているニンゲンの歩みは、どこに向かうかわからない。
キャストが素晴らしかった。精神的に危うい綾野剛、儚さがマッハの杉咲花、弱っていく佐藤浩市、みんなシコい。それにイっヌ！大型犬の子犬のころってヌイグルミみたい。てちてち歩く。かわいい。
雇われ監督業が続いていた瀬々敬久が、その立ち位置はそのままに、新東宝でピンク映画をやっていた頃の俗悪かつ文芸的な雰囲気を取り戻しつつあり、本作は特にその手触りが色濃く醸している。『ロクヨン』や『糸』も面白かった。
キャスティングや人物配置はありきたりな原作ものの企画なのに、どこか生々しくて、画面のなかで起きるのは救いがなく陰鬱なのに、あえてほんの少しだけユーモアをきかせる。非道な作家性が光る。初期作品のファンとしては嬉しい限り。
