3/11 大泉#4
観る人を幸せにする良作
ユーモアはあるがマナーはないトニー、マナーはあるがユーモアのないドク。この二人の旅がとても見やすくて、館内は幸せな笑い声に溢れていた。人生には旅が必要だ。いや人生そのものが旅か。
旅が始まる前のテンポの悪さとか、意外にあっさりとトニーが差別意識を捨てるとか、序盤に問題がなくはないが、旅が始まってからの怒涛の面白さで帳消しになった。
「差別の描写が手ぬるい」なんてのは実にお門違いの難癖で、これはあくまで二人の友情の物語。どこに軸足を置くかで作劇のバランスが変わるのは当然だ。最後の演奏会場で、ドクはこの旅本来の目的(自分の信念)よりも友情を取る。この「選択」とドロレスの「手紙をありがとう」。ここに本作のテーマが結実されていた。
重苦しい差別映画があふれる中で、こういう作品もまた絶対に必要だと思う。ユーモアをベースにした見やすいチューニングが素晴らしいが、作品賞受賞に異を唱える声が残念だ。序盤の王様のようなドクの部屋。ドクの自己内矛盾を示す効果的な場面だったが、「ブラックパンサー」を皮肉っているようにも見える。まあそうだとしても、ユーモアの範囲内だと思うのだが、あちらのチームは(アカデミー授賞式で)本作の作品賞にスタンディングしなかったとも聞く。本当なら残念だ。
賛否両論はあるが、決してオスカーを「獲りに行った」作品ではないと断言したい。観客の見やすさを第一に考えた、見る人を幸せにする良作だと思う。