Shelby

グリーンブックのShelbyのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.0
1960年代のアメリカ。都会の底辺で生きるイタリア系白人トニー・リップ。上流階級出身の人気黒人ジャズピアニスト、ドン・シャーリーにドライバーとして雇われ、アメリカ南部へのコンサートツアーに出発。人種偏見の残る南部で起こる様々な出来事をコメディタッチで描いた作品。実在の人物や出来事をベースに描かれている。

いい作品だったなぁ。重くなりがちな人種差別をコミカルに、更に感動作に仕立てあげているのがまた良い。従来、どうしても黒人は立場が弱く貧乏で、白人が裕福だという既成概念が根強くあるように思えるが、今作では見事なほど真逆な立ち位置。黒人が白人の雇い主という今までのステレオタイプを一蹴させる設定が更に面白い。
ただ、アカデミー賞受賞作にしてはえらくまたアッサリしているなぁ、とちょっと意外性を感じたのが正直なところだった。

ロマンチストで孤高のドンと、大雑把だがトラブルに強いトニーと正反対の2人だが、旅を続けていくうちに打ち解けていく。フライドチキンを食べるシーンはもう愉快すぎて。今まで1度もフライドチキンを食べたことがなかったドンに対して美味いから食ってみろよ!と半ば強引に食べさせるトニー。結果押し切られてフライドチキンを食べたドンは結構うまいじゃん、なんてご満悦。
ふと、骨どうしたらいいの?という問いかけに対し、こうすんだよ、とトニーは窓から骨を投げ捨てる。ドンも真似するが、真似されたことに調子を良くしたトニーが立て続けにドリンクの紙コップまでも投げ捨てる。すかさずそれはダメだろと制止をかけ、取りに戻ってこさせる。このシーンはアカンでしょ。面白すぎて映画館で大爆笑。あくまでも節度を重んじるドンの許容範囲外のことをさせないようトニーを叱るやり取りが、愉快で愛しさすら覚える。

しかし、まぁ当たり前だけど泣きました。特にドンがトニーの車を降りて、胸の内を明かす場面ではもう堪らなかった。今までの軽妙で痛快なシーンの数々から一変して、目を背けることの出来ない現実に引き戻す。
差別が深刻化していた時代を所々で察知せざるを得ないため、観客はこのシーンで否が応でも今までの差別シーンが思い出させられる。タイトルにもなっている、黒人のための安全旅行本である〝グリーンブック〟の存在、客として呼ばれていてもトイレは黒人専用を使わされ、レストランでは黒人の存在そのものが立ち入り禁止。その土地の文化そのものが、黒人を受け入れようとしていなかった時代。そんな中を自らの意思で巡業しようと決めたドンシャーリー。元々黒人差別を根本に備えていたトニーは、ドンの存在を間近で感じることで、差別意識がみるみる間に消えていく。あまつさえ、彼に親愛の情まで抱いていくのである。今まで嫌厭していた黒人という人間が、目の前で差別を受ける様を見ているのに、対して自分は何も出来ない。ましてや今の今まで黒人を差別していた側の人間であったこと。根本は優しい男であるトニーにとってこの旅は図らずしも考えを改める機会になったのである。

孤独だったドンがトニーと信頼関係を築いていく様子が丁寧に描かれており、行動することの大事さを学んだドンが自ら歩み寄っていくラストシーンはジンと胸に優しく染み渡る。
穏やかで凪のような気持ちで映画館を後にすることが出来た。凸凹コンビが織り成す素敵バディムービーはいつの時代も好まれるのだろうが、今作品ももれなく例外ではないことが納得できた作品だった。
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