しん

ドンバスのしんのレビュー・感想・評価

ドンバス(2018年製作の映画)
4.1
虚実の狭間を撮らせたらピカイチのセルゲイ・ロズニツァ監督が、フィクション作品として現代のドンバス地方(親ロシア派地域)を描いた作品です。

冒頭からフェイクニュース(ウクライナ側からの攻撃というフェイク)を作り出すためにお金で動員される市民たちが登場します。これはラストへの伏線となっており、その結末に深く心を痛めながらもリアリティの真髄を感じました。ラストのなが回しは、何も語らないのに雄弁でした。

本作では「ノヴォロシア」と親ロシア派が呼ぶ地域の人々の暮らしが中心になっています。戦場と日常が隣り合わせの世界、ナショナリズムが覆い尽くす世界、人権など完全に無視される世界に生きる市井の人々は、ウクライナ側に荷担したとされる人(彼らに言わせると「ナチスの犬」)を市中引き回しの末に殴った手で、ナショナリズムが沸騰するような結婚式で熱狂する、そんな鳥肌が立つような寒気のする世界が、そこには広がっています。目を背けたくなることの連続ですが、そういった世界に生きていることを鮮烈に気づかせてくれます。もちろんブラックユーモアな作品ですが、ウクライナ戦争が始まった現代の視点から観ると、もはやフィクションやユーモアでは語り尽くせないリアリティがあります。

ロズニツァ監督は、個人的に完全な推し監督になりました。虚実を飛び越え、その場に誘うような作品の運び方は、遠くスターリンの葬儀を描こうが、現代のドンバス地域を描こうが変わりません。そのリアリティに酔いしれ、心が削られ、その先にある未来を志向しながら帰る電車のなかは、毎回とても心地よい気持ちで一杯です。
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