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峠 最後のサムライのKUBOのレビュー・感想・評価

峠 最後のサムライ(2020年製作の映画)
4.0
今日の試写会は役所広司主演『峠 最後のサムライ』完成披露試写会。

大政奉還の後、鳥羽伏見の戦いから始まった戊辰戦争。日本を東西に分けた戦いを前にして、薩長にも、幕府側にも与しない、武装中立を目指した男、長岡藩家老河井継之介(役所広司)の物語。

西軍50000人に対して、長岡藩690人! 圧倒的な戦力の差は、今見るとロシアとウクライナにも見えてしまう。舞台挨拶で役所さんが「公開が延びて今になってしまったが、今見た方が響くものがあるかもしれない」と言っていたのは、そういうことかもしれない。

まず継之介は「戦わず負けないこと」を目指す。長岡が会津を説得しこの戦争そのものを回避してみせると、頭を下げて下げて下げ続ける。これぞ「外交」のチカラ。戦わずに済めば、それが何よりだ。

だが継之介の不戦の願いは果たされず、維新のうねりは小藩長岡を飲み込んでいく…

賢く、思慮深く、先を見る目があり、それでいて武士としての胆力は計り知れない。この河井継之介という男は「最後のサムライ」として本当にカッコいいんだけど、この継之介を演じる役所広司がまた本当にカッコいいんだ。

戦いたくなかった戦争も、始まってしまったならば、兵力の違いはあれど、知力を尽くし、地の利を活かして戦い抜く。圧倒的不利を伝えられた戦争が、多くの犠牲を出しながらも蓋を開けてみれば長岡が善戦し、西軍を押し戻す。

国を守ろうとするものと、侵略者たちの戦意の違い。やはりどこかで見たような構図と否が応でもダブる。

ああ、でも会津に逃げてもダメだ。歴史を知っている我々には哀しい先が見えてしまう。そんな中、最後のサムライはどうこの戦いに終止符を打つのか?

かつて龍馬ブームの頃は、維新の志士こそヒーローで幕府側は敵、という描かれ方が多かったが、最近は新撰組が主人公になったり、負ける側から描いた作品が多く見受けられる。滅びの美学とでも言うのだろうか。日本人はそういうのが好きだ。

本作の河井継之介も、不本意ながらも西軍に攻められ、絶対的不利の中でも「あきらめずに最後まで戦い抜く」!

小泉堯史監督の作品は大好きで『蜩の記』も★5つ付けてる。本作は、私が思うに、もっと泣かせる映画にもできたであろうに、あえて落ち着いたトーンで大人の映画に仕上げてある気がする。そういう意味で派手さがないから、若い人には向かないかもしれないが、名優役所広司と巨匠小泉堯史監督が再びタッグを組んだ本作は、日本映画ファン必見の作品である。
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