ぴのした

ジョーカーのぴのしたのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.1
すごいものを見たという感じ。面白かったけど、これを面白いと思ってしまうのが怖い。

正直、社会に見捨てられたジョーカーが自分を見下してきた人々を殺すとき、観る側も少なからず爽快感を感じるのではないか。その感情に自分で気付いてどきりとさせられる。

ジョーカーは親の病気や介護、自分の精神疾患、行政からの孤立、貧困、虐待…と格差社会と貧困がもたらす害をこれでもかと受けて、悪に染まった。

一方のバットマンになるブルースも、貧困で強盗をした男に親を殺された(この映画では少し描かれ方が違うが)。ヒーローになるそもそものきっかけは、元を辿ればゴッサムシティにはびこる格差と貧困だ。

その点でこの映画は、最強のヒーローと最凶の悪役は、まさに同じ「父親」の元に生まれたと語っているのだと思う。

というか、このジョーカーの覚醒ぶりを見ていると、バットマンに彼に匹敵するほどの戦う理由があるようにも思えない。

ブルースが善を選んだのは結局、資金や頼れる友人がいる「持てる側の人間」だったからでは?と思ってしまう。

人間の善悪に根源的な違いはなく、ただただ持って生まれた運や境遇の違いでどちらにでも転んでしまうもの。そういう目で見ると、ダークナイトでのジョーカーの犯罪もなんとなく理解できるというか、違った目線で観れる。

富裕層や一部の右派は、貧困層が貧困なのを「自己責任」と見る傾向があるらしいが、この映画はその認識を根本から揺るがそうとしているようにさえ感じる。

またこの映画には随所で、香港のデモや結愛ちゃんの虐待事件を思い出させるような内容がある。

貧困や犯罪が溢れるというゴッサムシティは架空の街だが、そこで起きていることは、今の世界や日本で起きていることとそう違いはないのかも知れない。

ちなみに、ダークナイトでジョーカーが言う口の傷の話やWhy so serious?の話がいつ出てくるのか期待してたんだけど、あれはまた別世界のジョーカーなのだろうか。

今から見る人は、ノーラン版のビギンズとダークナイトは必見だと思う。